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精霊の泉

作者: 尚文産商堂

そこには精霊がいるという噂であった。

「でも、本当にいるのかなぁ」

知識が欲しい。

それが私の欲望だ。

その精霊に頼めば、この世界の全ての物でも与えてくれるという。

一方で、何かを捧げる必要があると言う。

捧げ物は、その時々で様々だ。


私は、この世のすべての知識が欲しかった。

バカにされ続ける人生は、もううんざりだ。

だから、見返してやりたいという気持ちだからだ。

「泉の精霊さん…?」

半信半疑で、その言われた泉を覗き込んで、話しかける。

すると、一周数分かからないような泉の真ん中が盛り上がり、何かが飛び出してきた。

「呼んだのは、君かい?」

声は、泉からではなくて、私の後ろからだった。

「うわぁっ」

びっくりして、思わず泉に落ちそうになる。

そこを精霊に助けられる。

腕を引っ張られて、落ちるのを防いでくれた。

「危ないねぇ」

「ありがとうございます」

声から判断するに、どうやら男のようだ。

その手は、清らかで、すべすべしていて、絹のような感覚だ。

「それで、この泉には何か用?」

「あ、そうでした」

そこで、用事を思い出す。

「この世界の全ての知識が欲しいのです」

「知識、か」

何か、含みを持たせるような口調で、私にわざとらしくためを作って話しかける。

少しムッとする私を見てか、何か隠しているように笑いかけながら、ついておいでと私に言った。


「ここ、座って」

椅子をすすめられる。

椅子は、私が見たことがない堅いもので、継ぎ目なしに造られていた。

「じゃあ、知識を与えるけど、代わりにその髪の毛をくれるかな」

私の頭を指さしてはっきりという。

「ええ、どうぞ……」

そう言ったはいいが、周りにはさみはない。

「ありがとうね」

精霊は指でビッと横一直線に線を引っ張ると、はらはらと後ろから髪の毛が落ちていく。

「うん、これぐらいでいいかな」

初めは肩ぐらいまであったのに、今は耳が隠れないほどの短さだ。

急に背筋が寒くなってくる。

「では、知恵を与えるとしよう」

笑っている精霊の姿には、恐怖すら覚える。

何か、怖い存在を相手にしているということだ。

何も言いだせない、何も言うことができないほどの恐怖だ。

「じゃあ、ね」

そして、私の額に指を付けると、一瞬で表現しようもないほどの量の知識が流れ込んだ。


数時間、どうやらプラスチックの椅子の上で眠っていたようだ。

「おや、起きたかい」

精霊は、私にガムシロップが入ったコーヒーをさし出す。

「ありがとうございます」

それを私は両手で受け取る。

暖かいコーヒーは、心身をリラックスさせてくれる、いい薬だ。

「うん、気分はどうだい」

「最高です」

なにか晴れ晴れとしているのは事実だ。

これまでの曇りが一斉に晴れたような感じだ。

「なら、もう帰りなさい」

「はい、ありがとうございました」

私は、一礼をして彼に別れを告げ、家へと走って戻った。

きっと、心配しているからだ。

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