第七章 クラス編入
「ま、またしても眠れなかった・・・・・・」
ルカとイスズの説教は体感時間三時間位まで続き、夜更かししてしまった。
美沙希の怒られる原因、元凶であるスズハは風呂場で見つかった瞬間、猛スピードで浴槽から飛び出て風呂場を去っていった。
ルカとイスズからは「イスズと何してたのっ!?」とか、「やっぱ男は胸か・・・・・・よし、殺そう」と、魔術をぶつけられそうになったりと、散々だった。
寮に来て早々問題を起こしてしまったが、印象は悪くなっていないだろうか、嫌われていないだろうかと、考えている内に朝になってしまったのだ。
「前の世界でも、こんな事あったな」
俺の元いた世界、現存世界で、メンバー全員を家に招いてパーティーをした事があった。
03、龍ケ崎明乃の誕生日パーティーをしたのだ。
その際、美沙希の家に泊まると言う話になって、夜遅くまで話し込んだ。その最中に美沙希はシャワーを浴びてくるといい、グループから離れた。その時に、01、兜森蒼波が美沙希のシャワー中に全裸で突撃してきたのだ。
それを見た02と03がそれ以上の事にならぬよう止めるという面目で乱入してきた。
あの時、美沙希は全身を殴られ、動く事すらままならない身体にされた。
03曰く、「01の身体が04にくっついてたら04暴走しちゃうよ」だそうだ。
「あー、忘れたい・・・・・・」
美沙希は、01の体付きの良さをそこで知ってしまったのだ。それが、今でも忘れられない。
(こんなんで顔赤くしてたらただの変態じゃねえかよ・・・・・・)
顔を軽く叩き、勢い良く上半身を起こし、ベットから降りる。
窓際に寄り、カーテンを開ける。
眩しい太陽の光が部屋を照らす。
目覚めかけの目をぎゅっと閉じ、目に染みる日光を遮る。
「・・・・・・着替えよう」
箪笥を開け、制服という名のロングコートを取り出す。
ロングコートをベットの上に投げ、シャツとズボンを取り出して、同じくベットに投げる。
履いていた短パンを下げ、上のTシャツを脱ぐ。
シャツを羽織り、ボタンを締めて行く。
その時、扉が開いた。
「ミサキさーん、朝ですが、起きていらっしゃいますかー?・・・・・・あら?」
扉の前には、制服を着て気品を離れていても感じさせる様な、美しい金色の髪を持った少女、ルーセントハートがいた。
「え、ルーセントハートっ?」
突然の事に間抜けな声を上げて手を止める美沙希。
「あら、あらあらあら・・・・・・女の子がシャツ来てるみたいですわ」
「な、ふざけんなっ!俺は男だ、何度も言わせんなよ!」
「貧乳美少女、ですわね・・・・・・」
「お前、俺の話聞いてたか?」
ルーセントハートは目をキラキラと輝かせながらよだれを垂らしている。
「・・・・・・はっ!?し、失礼しました。朝食が出来てますので御早めに~」
バタンと扉を閉め、きゃー!と、声を上げて階段を下りていくルーセントハート。
何かいけない物をみたような悲鳴に、美沙希は困惑する。
「お、俺何か悪い事したか・・・・・・?」
ズボンを上げ、ガンポーチベルトを通して固定する。
オリハルコン製USPとサバイバルナイフを収納し、ロングコートを羽織る。
黒色のオリジナルUSPをロングコートの内ポケットに仕舞い、ネクタイを締める。ここまではいつもとは変わらない。
箪笥から美沙希が異世界に来た時に来ていた黒のジャケットを取り出す。
ポケットを漁り、四本のヘアピンを掴み、ロングコートのポケットに押し込む。
「・・・・・・よし」
美沙希は部屋の扉を開け、階段を下りていく。
◆◇◆◇◆◇◆
「おっ、ミサキじゃーん、おっは・・・・・・よう?」
「おはようございます、ミサ・・・・・・キ」
「む、起きたかミサキ―――――――ミサキ?」
「おー、おはよーミサ――――――キィ・・・・・・」
「まぁ・・・・・・」
リビングに向かうと、美沙希を見て全員言葉を無くす。
「やっぱ、変か?」
美沙希は髪の右側を触る。
今美沙希は右側の髪をヘアピンで纏めて止めている。
ただでさえ女性と見間違われるというのに、長い髪を纏めればもう女性としか言い様がない。
「・・・・・・取るわ」
「「「「「待ったッ!」」」」」
五人全員が椅子から立ち上がり、声を揃える。
「なんだよ、おかしいんだろ?」
「いや、おかしくないっ。むしろ超似合ってる、ミサキ最高!」
「そうだって!あ、今度あたしがヘアピン錬成してあげる!」
「素晴らしいですわ・・・・」
「ふむ、似合っているぞ。男らしさは一切感じられなくなっているが」
「とてもお似合いですよ。ミサキらしいです」
各々勝手に感想を述べるが、美沙希にはそれが誤魔化している様にしか見えなかった。
「・・・・・・ゴムに変えよ」
美沙希はヘアピンを外し、後ろ髪を纏めて短めのポニーテールを作った。
「・・・・・・あ、俺先に学園に行ってるわ」
美沙希は何も塗っていないトーストを口にくわえ、玄関に向かった。
扉にもたれさせていたライフルケースを背負い、先に寮を出た。
◆◇◆◇◆◇◆
美沙希は学園の射撃場に来た。朝練とうい名の射撃練習をしたかったのだ。
現存世界の時の様に、頻繁に仕事が入る訳じゃない。
腕を鈍らせない様にしておくために練習するのだ。
そして、銃が、美沙希にとってこの世界で生きるのに必要な武器なのだ。
美沙希はUSPのオープンサイトを覗き込み、的の頭、胸、股間を何度も撃ち抜く。
何度も、何度も、何度も、一ミリもズレを残す事無く撃ち抜いていく。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
腕が怒りで震える。
弾倉を入れ、コッキングする。
終いには内ポケットからもう一丁のUSPを取り出し、二挺拳銃で乱れ撃ちする。
ガンッ、ガンッ、と、的を正確に射抜いていく。
子供の頃に無理矢理身体に染み込まされた動作が全て脳裏に蘇ってくる。
美沙希には、人型の的が、子供の頃自分を拉致誘拐し、傭兵として育てた男に見えた。
「―――――――――死ねッ!!」
ロングマガジンに入れ替え、USPをフルオートに切り替える。
普通のUSPにはフルオート機能など無い。魔改造で搭載させた機能だ。
美沙希は全弾撃ち尽くし、的の頭に全て着弾させた。
「・・・・・・・・・何、熱くなってんだ」
昔、その男は自分の手で殺したのに。
そう自分に言い聞かせ、行き場の無い怒りを鎮める。
通常のマガジンに入れ替え、仕舞う。
地面に散らばった空薬莢を一瞥し、射撃場を去ろうとする。
「感心しないな、後片付けをせずに去るつもりか」
扉を見ると、腕を組み、壁にもたれて凛とした表情を見せる少女、スズハがいた。
スズハは射撃台に近寄り、美沙希が撃っていた的を見る。
「ここまで人の急所を正確に、しかも一ミリもずらす事無く撃ち抜くとは、お前、現存世界で何をしていた?」
「何も。ただ、銃を扱う仕事をしていただけだ」
空薬莢を足で纏め、射撃台の上に綺麗に並べていく。
「そんな誤魔化しが通用すると思うなよ。あれだけ顔を怒りに歪めながら銃の引き金を引き続けて、銃関係の職についていたなどの嘘が通ると思うか?」
美沙希はいつもより冷めた視線をスズハに送る。
美沙希の手はナイフに伸びている。いつでもスズハの喉元を掻き切るように。
「この場でお前と手合わせしようなどとは思わない。第一、横腹の傷が治っていないお前を倒しても何の意味も無い」
スズハは美沙希を気に掛ける事無く、空薬莢を一つ掴む。
「何か、言いづらい事なのか」
「言いづらいとか、そういう問題じゃない。誰も理解出来ない、そういう仕事だ」
「・・・・・・そうか」
スズハは手に力を入れ、空薬莢を握り潰す。
火縄銃の鉛玉の様な形になった空薬莢を、投球フォームを取り、投げる。
バコォン!と、金属が金属にめり込む音を射撃場に響かせる。
「ついてこい、教室を案内する」
スズハは美沙希の手を取り、射撃場を出た。
◆◇◆◇◆◇◆
「ここがお前の入るクラスの教室だ。もう知っていると思うが、ここには女子しかいない。変な気だけは起こすなよ」
大きな扉の上に『二年』とだけ書かれたシンプルなプレートが飾られた綺麗な部屋。
ここが、美沙希の編入する事になる教室だ。
「起こさねえよ。・・・・・・あれ、お前もここなのか?」
美沙希は、スズハを上級生だとばかり思っていた。
「私はまだ二年生だ。よって、私もここの教室になる。困った事があれば何でも言え、力になる」
「あ、ああ」
スズハは扉を開け、教卓に向かう。
「あ、はい。新しい生徒さんね。早速自己紹介頼めるかしら」
「は、はい」
美沙希は教卓の前に立ち、軽く息を吐く。
「えっと、弓坂美沙希です。多分珍しい名前だと思うんで、ミサキと呼んでくれるといいかと思います。宜しくお願いします」
自己紹介を終えるも、空気は変わらず、無言が漂う。
(な、何か失敗したか・・・・・・?)
無自覚でミスを犯したのかと焦り、あたふたしている美沙希を見て教室内が軽い笑いに包まれる。
「えっ、えっ?」
何で笑うのか美沙希にはわからなかった。
座席に座っているスズハに視線を送ると、力強く頷き「自信を持て」と伝えたいかのような熱い視線を送ってくる。
(・・・・・・よ、よし)
「お、俺は、まじゅちゅが使えないし、至らない所が色々ありますがっ、ど、どうか仲良くしてくだしゃいっ!」
全力で頭を下げ、教卓に額を力強くぶつける。
「い゛だっ゛」
額を抑え、痛みを堪える。
教室内を見渡すと、腹を押さえて笑う者、涙を流して笑う者、呆れて苦笑いする者が視界に入った。
スズハは苦笑いする者の一人だが、腕を組んで軽く頷く。どうやら合格の様だ。
「じゃあ、個性的なお友達が今日から仲間になります。皆さん、仲良くね~」
(おいコラ、個性的ってどういう事だ)
表の顔は苦笑いだが、心中は黒く濁った言葉を浮かべて担任を見据える。
「じゃあ、ミサキさんの席はスズハさんの隣でいいわね?」
「・・・・・・先生、俺男です」
「・・・・・・・・・あっ」
(頼りねぇ・・・・・・)
美沙希の学園生活初日は、不安と緊張、その中のひと握りの期待で始まった。