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第三章 魔術師の朝

「ね、寝れんかった・・・・・・」

キングサイズのベットに身体を横にし、天井を見つめる美沙希。

その目には隈が浮かんでおり、睡眠不足が伺える。

「何でいきなりお金持ち生活エンジョイしてんだよ、俺」

ベットから重たい身体を起こし、布団を退かす。

肌寒い空気が漂う部屋の窓を開け、換気する。

照りつけるような太陽が上がり、空を飛ぶ鳥・・・・・・の様な猫が目に入る。

「・・・・・・何であの鳥羽生えてるんだ?」

そこはやはり異世界らしく、モンスターじみた生物が共に共存している。

短パンとTシャツという寝巻き姿の美沙希は腕を摩りながら箪笥たんすを開ける。

「これが制服―――――――おいちょっと待て何でスカートなんだ?」

箪笥から取り出したのは、ドランシー女学園の制服だった。男性用では無く、女性用。

(そういえば、ミリタリナの奴俺の性別知ってんだろうな?)

中性、と言うより、最早もはや女性と言っても一切違和感の無い顔を持つ美沙希を見て、女性と思い込んでいる可能性が高い。

「ミサキ、起きましたか?」

「良い所に来た。お前これ説明しろ」

手に持っていたドランシー女学園女性用制服をミリタリナに突き付ける。

「説明しろって、見たまんま制服ですが」

「いや違うだろ、何で女性用なんだ」

「何で女性用なんだって言われても・・・・・・」

真顔ですっとぼけるミリタリナに制服を投げつける。

「・・・・・・あのな、俺は男だ。女性用の制服なんか着れるかッ」

怒り心頭といった感じで箪笥の扉を閉める。

「ふふっ、少し揶揄からかっただけです。引き出しに特注の男子用制服がありますので、そちらを着て下さい」

「お前、真顔でふざけるんだな・・・・・・」

「私、こう見えてジョークの類が大好きなんですよ?」

「説得力の無い説明ありがとう。というか、俺を人目で男って分かったのか?」

現存世界での学校生活でも女性と間違われたのにこの女、ミリタリナは人目でミサキを女ではなく男と見抜いたのだ。

「ええ。少々悩みましたが、男性ではないかと思っていました」

「決定材料は?」

「決定材料ですか、それは―――――――」

そう言うと、ミリタリナはミサキの股間を見つめる。

「ストップ言うな、絶対に言うな」

「そうですか、じゃあ早めに着替えてしまって下さい」

扉の脇にちょこんと立つミリタリナを、美沙希は半眼で睨む。

「・・・・・・出てけよ」

「あ、これは失礼しました。先に一階で待ってますね」

薄く笑い、扉を静かに閉める。

見た目と反してミリタリナは悪戯好きな女だと言う事を知った美沙希だった。

朝から心臓に悪いジョークと下ネタのおかげで肌寒さをすっかり忘れていた。

「引き出し・・・・・・おお、凄いな」

引き出しを開け、黒と赤で彩られた如何にも男性向けといった地味なカラーのロングコートが新品の袋に入っていた。下に着るシャツとズボンが数着綺麗に畳んで置いてあるのを見て、それを取り出す。

「・・・・・・ん?なんだこれ」

ロングコートを袋から出して広げると、中からボトッと大きな音を出して地面に落ちる物があった。

「・・・・・・おお、これガンポーチか」

箪笥から取り出した黒のジャケットからUSPを取り出し、ガンポーチに入れてみる。

ほんの少しの隙間を開け、綺麗に収まった。ポーチの飛び出し防止のストラップを付けて固定。

サバイバルナイフも専用のストラップの中に収め、ベルトに通した。

「すげえ、動きの邪魔にならない」

腰にピッタリ合い、飛んでも走ってもベロベロ跳ねる事無く装着された。

ロングコートで隠れる形になる為素早く銃、ナイフを取り出す事は難しそうだが、それでも早く取れる様に腕の近くにラックがある。

(誰がいつ作ったのか分からないが、ありがたい)

シャツ、ズボンを履き、をガンポーチをベルト部分に通す。ベルト部分は皮で出来ている為普通のベルトと変わらないので付け方は一緒だ。

最後に緩めにネクタイを締め、準備完了。

「・・・・・・・・・・・・」

(なんか、男装女子みたいだ)

キマっている、と思った美沙希は顔をしかめて肩を下ろす。

期待外れの自分の姿にガッカリしながら、部屋を出た。



◆◇◆◇◆◇◆



階段を降り、一階のリビングに行くと、美沙希以外の女が四人居た。

「ん、誰この人」

赤髪で短いサイドテールの女が口にトースト(?)を加えながら喋る。

「行儀が悪いですよルカ。彼はミサキ、今日から同じドランシー女学園の生徒です。あ、男性ですよ」

ミリタリナが美沙希が男である事を補足するように言う。

「おおぅ!?何で男が女学園に来るのさ!?」

椅子から立ち上がり、俺を凝視する。

「あ、分かったよ。女の顔持ってるから女学園に侵入出来ると思ってるんでしょ」

「ンな訳―――――――」

「そんでもって自分の園みたいに学園を牛耳るんでしょっ!ぎゃー鬼畜ッ!」

顔を真っ赤にして頭を抱えるように頭を振り回す。軽くヴィジュアル系ライブを見ている感じだ。

彼女なりのジョークなのだろうが、変に現実的で怖い。

「ルカ、彼は正式に学園長の許可を取って入学するんです。園どうこうは置いておいて、彼はもう仲間です。仲良くしてくださいね」

「うん。あたしはルカ・フラメルっていうの、よしくね、ミサキっ!」

さっきとは正反対の眩しい笑顔を向けてくる。

「ああ、よろしく」

なるべく変な印象を持たれない様に笑顔で応える。

「うわぁ、ホントに女みたいだね。もういっそ女で学園入っちゃったら?」

非常に複雑な心情の美沙希を他所に、一人はしゃぐルカ。

「締まらん顔だな、それでは世間に舐められるぞ」

青髪のポニーテールの少女がトーストにバターを塗りながら厳しい一言を吐く。

「いいか、生きると言う事は簡単では無い。己の力量を計り、強者と腕を交えて力を蓄えていかなければいずれ己自身に負ける。人生とは―――――――」

「・・・・・・・・・なんだ、あれ」

半眼で青髪の少女を睨む美沙希は、ルカに尋ねる。

「あー、スズハはガチの騎士道進んでるから、戦いの話とか、弱そうな人見るとああやってキツイ言葉で諭すんだよ。あたしも良く言われるよ、「魔法のコントロールがなってない!」って。武闘派にも程があるよ・・・・・・」

ココアの入ったコップを両手に持ち、深海よりも深いため息をつく。

「ミサキも気を付けてね、捕まったらいきなり決闘!なんてこともあるから」

遠い記憶を思い出す様に明後日の方向を向くルカ。その目には涙がうっすら見える。

「苦労してるんだな、お前」

「わかってくれるかい、少じょ――――少年よ」

「・・・・・・・・・」

素で間違えたのは言うまでもないだろうが、地味に傷付く美沙希であった。

「で、あるからして――――――――おい、聞いているのか男」

スズハと呼ばれる凛々しい顔をした少女が美沙希を睨みつける。

妙なプレッシャーを感じつつも、視線を逸らさず見つめる。

「俺が弱いっていう根拠があるのか?」

「ああ、あるぞ。まず一つは腰に付けている妙な武器二つだ」

見てもいないのに美沙希武器の数を当ててみせるスズハ。

「飛び道具のようだが、それでは私には勝てんぞ男」

「俺にはちゃんとした美沙希っていう名前がある。性別で呼ぶな男女おとこおんな

スズハに対抗せんとキツイ言葉を投げかける美沙希。

「ほぅ、良い心意気だ。余程よほど斬られたいらしい」

「アンタは頭蓋をぶち抜かれたいらしいな」

銃に手が伸びそうなのを抑え、睨み返す。

すると、スズハは阿修羅の様な殺気を霧散させて、トーストを口にくわえ始める。

「すまない、ちょっと試しただけだ。悪く思わないで欲しい」

薄く笑いながらトーストを齧る。

(ここに住んでる奴は別の意味で強敵だな・・・・・・)

「相変わらず手厳しいですわね、スズハ」

言葉使いが絵に書いたように上品な金髪の少女が、ティーカップに砂糖を大量に流し込みながら笑う。

(・・・・・・・・・うまそう)

意外と甘党な美沙希にはご馳走に見えた。

「自己紹介が遅れました、私はシルヴィア。シルヴィア・ルーセントハートですわ」

「よ、よろしく・・・・・・」

「シルヴィアは成績が良くて頭良いんだよ。凄い甘党だけどねー」

「甘い食べ物は動力源、生きるのに必要なのですわ」

えっへんと胸を張るシルヴィアを隣で睨む小学生の様な少女が口を開く。

「動力源って、胸の栄養の間違いじゃないの?」

シルヴィアに負けじとコーヒーに砂糖を流し込み、それを飲んで「うげぇ」と吐き戻す。

(ああ、勿体無い・・・・・・)

「あー、自己紹介遅れたわ。あたしはイスズ、よろしくね」

「ああ、よろしく。――――――あれ、もう一人は?」

昨日の夕方、ミリタリナがこの寮にはミリタリナ以外に五人いると言っていた。が、この場には四人しかいない。

「ああ、もう一人は先に学園に行っています。学園に行けば会えますよ」

ポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認するミリタリナ。

「そろそろ時間です。荷物を持って各自外に出て下さい」

「はいよー」

「分かった」

「わかりましたわ」

「うぃーす」

「ちょ、俺まだ飯食べてないッ!」

結果、美沙希はトーストだけしか食べる事が出来なかった。

(こいつら、狙ってやってんのかっ?)

トーストを加えながら寮を出たらスズハに怒鳴られたし、トーストの半分をイスズとルカに奪われた。

問題児の集まりにしか見えないが、魔術師としての実力は如何な物か、予想が付かない。

美沙希は、この先の出来事に期待を持ちながらも、不安を感じざるを得なかった。








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