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第十八章 魔術結界

「んしょっと・・・・・・これでいいのか?」

「はい、助かりました」

美沙希とミリタリナは生徒会室までプリントの束を運んだ。

既に日が落ちており、外は濃い蒼色に染まっている。

現存世界ではありえない、雨の様に流星群が空を彩っている。

そんな空を眺めて美沙希は一息つく。

「綺麗だな。こんなの見た事無いよ」

「そうなんですか?至って普通なんですが・・・・・・」

「これが普通なのかっ?そりゃすげえ。元いた世界じゃ、山のてっぺんまで行かないと見れないぞ。家から見たらうっすら見えるだけで、、星なんか降らねえよ。滅多にな」

「それは気になりますね。私から見たら、それが綺麗に見えるしれません」

「そんなもんか。なら―――――」

見に行くか?そう言いかけた所で口を閉じる。

無神経な発言だろう、美沙希はそう思った。

「なら、何ですか?」

「いや、何でもない。気にしないでくれ。もう外は暗いし、早く帰ろう。腹減った」

「そうですね。私もお腹が空きました」

美沙希は生徒会室の扉を開け、廊下に足を踏み出す。その時、何かが割れる音がした。

「ん、何だ?」

美沙希は足を退かし、踏んだ物を見ようとする。

「駄目です、ミサキッ!!」

「え―――――――むぅっ!?」

美沙希はミリタリナに押し倒され、地面に後頭部をぶつける。

顔面には柔らかい何かが押し付けられて前が見えない。恐らくミリタリナの胸だろう。

「やられました。魔術結界です」

ミリタリナは美沙希の頭を胸から解放し、肩を揺する。

「意識はありますか?ミサキ・・・・・・ミサキ?」

「な、なんだ?」

胸から頭を出したミサキの顔は、茹で(たこ)の様に朱で染まっていた。

頭を胸から出したというだけで、まだ首に柔らかい胸が当たっているのだが、それにミリタリナは気付く様子はない。

「な、何がどうなってるんだ?」

「魔術結界の魔法陣が刻まれた種を踏んだんです。暫くここから出る事は出来ませんね」

「そ、それってやばいんじゃないか?」

「ええ、ここから出る事が出来ないどころか、魔力を吸収されています」

ミリタリナは指先に炎を灯し、天井目掛けて放つ。

すると、放たれた炎はブラックホールに吸い込まれたかの様に消えていった。

「いいですかミサキ。結界の中に閉じ込められてる今、魔術を使うのは自殺行為。身体から魔力が大きく吸われてしまいます」

ミリタリナは腰から剣を抜き、立ち上がる。

「今から、魔術無しでこの結界から脱出しなければなりません。手伝ってくれますか?ミサキ」

「・・・・・・勿論。腹減って死にそうなんだ。さっさと帰ろうぜ」

美沙希はUSPを抜き、遊底スライドを引く。

「では、まずは術者を探します。はぐれないでくださいね」

「了解」

美沙希は立ち上がり、ミリタリナと共に廊下を駆け出した。



◆◇◆◇◆◇◆



「まず、手当たり次第に部屋を探していきます。術者は必ず中に居ます。捜索を怠らないでください」

「外から結界を掛けてるっていう事は?」

「まず有り得ません。結界は自分の身体を中心として展開するもの、結界の外に出るのは不可能でしょう。ですが今回はイレギュラー、魔法陣を刻んだ種が中心です。結界の中に術者が居ると踏んで捜索するのが得策です」

「じゃあ、もし外から結界を掛けているとしたら?出れるのか?」

「方法はあります。が、その方法は魔力を使う。しかもこの結界は魔力吸引型、危険を伴います」

「手はあるけど出しづらいってのが問題なんだな。でも、それだけなんだろ?」

美沙希は胸をドンと叩く。

「スズハによれば、俺の魔力は測定不能の域らしい。って事は、吸われても然程問題無いって事だろ?それに、ここには俺とミリタリナ含めて三人居る」

「三人・・・・・・?」

美沙希は右胸を軽く叩く。

それと同時に右胸の魔法陣が浮かび上がり、紅色に輝く。

次に目を開くと、目の前には黒髪の少女が立っていた。

「お呼びですか、主」

紅色の粒子を纏い、瞳をそれよりも深い紅、真紅に染める。

「ちょっと手伝って欲しい事があって呼んだ。今の状況は把握出来るか?」

心美は周囲を見渡し、ため息をつく。

「・・・・・・はい、魔力吸収型の広範囲結界。また面倒な物に引っ掛かりましたね。主」

「まあ、原因は俺なんだけれど」

「しかし、そんな主を守るのが私の使命であり存在意義」

心美は周囲に撒き散らしていた紅色の粒子の色を何倍にも濃くして力を解放する。

「この結界には召喚獣の魔力を吸収する仕掛けは無い。とすれば、私を使役する主が目的で仕掛けられた結界では無い。目的は別と言う事になる。銀髪、心当たりは」

「無い・・・・・・といえば、嘘になります。原因は私かもしれません」

「そうか。なら、原因を排除すればいい」

心美は粒子を右手に集め、刀の形を取る。

紅色の太刀をミリタリナの頭部を狙う様にして振り上げる。

「バカッ、何してんだ!」

美沙希は心美を羽交い締めにして動きを封じる。

「主、原因排除は基本中の基本です。この女が、主が危険に陥った原因であるならば排除する。それが、私の使命です」

「まだミリタリナが原因だっていう証拠は無いっ。それに、こいつがもし原因でもどうこうする必要は無いだろ!!」

「主、貴方はまだ幼すぎる。原因は身近に、裏切り者はすぐそこに、人を信じるのであればまず人を疑う事から始めてください。そうしなければ、取り返しのつかない事になりかねない」

「じゃあ、お前は人を信じる事から始めろ。すぐに原因と決め付けるんじゃなくて、守ってやれ。俺だけじゃなく、周りの奴らを」

「・・・・・・甘すぎる」

心美は美沙希の腕を振り払い、視線を合わせる。

「まだ、私と貴方は仮契約の状態です。ですが、今の私は貴方との契約に納得出来ない」

心美は美沙希の隣を抜けていき、廊下を歩いていく。

「おい、どこ行くんだよ!」

「術者を探してきます。貴方は高みの見物でもしていて下さい。一緒に居ても足でまといなだけですので」

心美は振り返る事無く、先を進む。

「本契約の際には、私を納得させて下さい。ですが、今の貴方には惹かれない。私の主に相応しくなった時、私から契約を薦めます。それでは」

身体を粒子に変換し、廊下から消える心美。

美沙希は言い返す事が出来ず、ただ歯を強く噛み締める。

「・・・・・・ごめんなさい」

「・・・・・・お前のせいじゃ無いだろ」

無音の空気が漂う中、美沙希とミリタリナは佇む。

が、そういられたのは一瞬だけだった。

「・・・・・・誰かが入ってきました」

「ああ、なんとなく感じた」

水の表面に水滴が落ちるような感覚を胸に感じながら、美沙希は屈む。

「近いぞ。相当のスピードでこっちに向かってきてる。道を間違えたりしていない、明らかに俺達が目的で向かってきてるぞ」

「迎撃しましょう。もし術者なら結界を解除する事ができるかもしれません」

「わかった。俺が行く」

「・・・・・・あ、ミサキっ。止まってください」

美沙希は身を低くした状態のまま廊下を走り、廊下を曲がる。

同時にUSPを構え、安全装置セーフティーを外す。

「ッ!?」

美沙希は大きく後ろに跳ぶ。

美沙希が立っていた場所には美しい銀色で彩られた、直刀が刺さっていた。

敵の主武装が判明したのと同時に美沙希はナイフを取り出し、柄の部分のパーツをスライドして外し、USPの銃身下にあるアクセサリーレールに取り付ける。

直刀が地面から抜かれ、再び美沙希へと襲いかかる。

それをナイフの刃で受け、剣を掴む腕を美沙希は左手で殴る。

「ッ!」

敵は身体を前に押し出し、美沙希の身体を強く押す。

その時、影からドランシー女学園の女生徒用ブレザーの袖が見えた。

「女ッ!?」

美沙希が気付く前に女は青く長い髪を靡かせ、回転の遠心力に乗った回し蹴りを放つ。

それを美沙希は首を後ろに逸らす事で避ける。

が、女は全身を使ったタックルで美沙希の胸を強く叩く。

勢いに負けた美沙希は女とその場に倒れ込む。

「――――――かはっ!」

肺から空気が抜け、息苦しくなる。

喉元に直刀の刃を押し付けられ、絶対絶命の状態になる。

が、そんな時に、場違いの言葉が聞こえてくる。

「スズハ、そんなに怯えなくてもいいんじゃないですか?」

「・・・・・・えっ?」

美沙希は腹の上に乗る青髪の少女の顔を見る。

そこには、顔を真っ青にしながら歯をガチガチと震わせる、ドランシー女学園騎士団長、スズハがいた。




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