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第十章 学園長参上

「こ、これを外してくだサイ!誤解なんデスってばー!」

腕と足を縄で結ばれ、しゃちほこの様に背中を反らせて暴れる軍服の少女。

所持していた装備を全て剥がれ、迷彩服一枚の状態だ。

あの後、少女はミリタリナのスズハに連れられて、鉄壁の部屋で尋問を受けている。

現存世界の尋問とは随分と違うが、これも、異世界の常識だと決めつけて現実逃避する美沙希。

「吐け。正直に言えば腕の一本位は残してやる」

「腕でも足でも、欠けてしまったら生活に支障がでますヨ!?」

匍匐前進ほふくぜんしんすればいいだろう。続ければ慣れる」

「いや、そういう意味ではなく―――――――」

「スズハ、そんな事はしなくていいでしょう」

ミリタリナがスズハの暴走を止める。

美沙希には暴走に見えなかったが、義理堅い騎士団長は、罰に対して非常に厳しい。

「足ではなく、腕を切れば歩けますよ」

「いや、そこじゃねえだろ・・・・・・」

冷静、勉強熱心である完璧生徒会長だとしても、やはり罰には厳しい様子。

厳しすぎる様に見えるが、程度と言う物がある。

「別に、逃がしてやればいいじゃねえか。特に目立つ事はしてないし、誰かが被害にあったっていう報告も無い。何か、軽い処分で済ませれば良いと思うぞ」

美沙希は、校庭を何周か走らせるとか、筋トレ休憩無し十分間等を想像した。

が、その様な想像は塵へ帰る。

「じゃあ、指一本だな。小指」

「ですね」

「ヒぃっ!?」

「だから身体のパーツ持ってくのやめろって!!」

そうまでして切りたいのか、若干目が据わっている。

スズハは剣の柄を握り、ミリタリナは小型のナイフをペン回しの様に軽々と回す。

「こ、この人達怖いデス・・・・・・」

少女は涙目で美沙希に視線を送る。

「た、助けてくだサイっ。この人達オカシイデス!!」

確かにそうだが、肯定も否定も出来ない美沙希。人が良いのか、優柔不断なのか。

「ま、まあ、俺から見ると、今この場での悪は二人だと思うけどな・・・・・・」

剣とナイフを片手に目を据わらせている少女二人の後ろ姿は獲物をどう殺すか手段を模索する阿修羅その物だ。

「なあ、これ、俺に任せてくれないか?」

美沙希は提案する。が、美沙希の予想通りスズハとミリタリナは否定しに掛かる。

「もしお前に何かあったらどうする。横腹の傷も治ってないんだろう」

「私もそれには反対します。この学園に来て数日しか経っていない、学園の方針に従って頂きます」

どれも正論だが、美沙希は正論に正論を返す。

「じゃあ、俺が罰を与える。学園の侵入者には罰を与える、規則にあるって言ってたろ?でも、罰を決める人が決まってるなんて何処にも書いてない」

美沙希は、ドランシー女学園の生徒手帳を取り出し、ミリタリナに見せる。

「別に、危険がある訳でもないし。万が一こいつが変な動きをすれば殺せばいい」

美沙希は、現存世界でのやり方を実践しようとする。

が、それに更に正論を重ねる二人。

「「いや、殺しては駄目ですだろう」」

「腕切ろうとしてた奴の台詞かよそれっ!?」

美沙希は01と02を相手にしている様だった。

確かに正論だが、冷静に考えるとおかしい所があるのだ。

「あ、あの、結局の所私はどうなるんデスか?」

少女が下から目線でミリタリナとスズハを見る。

が、すぐに目を逸らし、涙目で美沙希を見つめる。

「んん、ミサキの提案にも一理ある。が、気になる点がいくつかある」

スズハが剣を収め、壁にもたれる。

「もし罰を受けたとして、こいつはその後どうする気だ?」

それは美沙希も考えた。

「多分だけど、こいつ軍隊に所属してるかもしれない。服装からして想像できるし、迷彩服と銃、防弾ベストってだけでも証拠は十分だろ」

「はあ、良く分かりましたネ。そういえば、銃を持ってました、何かに所属しているんデスか?」

「いや、何にも。お前は自衛隊か?」

「ハイ、日本からやってきまシタ」

「は!?」

美沙希は聞き逃さなかった。

少女は、『日本から来た』と言ったのだ。

「ま、まてまて。お前、ここにどうやって来た!?」

もしかしたら現存世界、元いた世界に帰れるのではないか、美沙希は大いに期待した。

が、少女はうーん、と唸るだけで、答えようとしない。

「答えてくれ、頼むっ」

「そ、そう言われましても・・・・・・」

口をわなわなと動かし、必死に言葉を探す少女。

すると、ハッと目を開き、美沙希を見る。

「思い出しましたッ。あ、でも、帰る方法ではありませン」

少女はイモムシの様に身体を動かし、美沙希の足元まで移動する。

美沙希は腰をかがめ、少女に顔を寄せる。

「えと、私は、その、日本から来たと言いましたケド、ここに来る前の記憶があまりないんデス。日本で直前にやってた事は覚えてるんデスけど、次に目を覚ました時には既にここに来ていまシタ。もう結構来てから日が経ってますケド、アナタと同じ、迷い人デスヨ。いわゆる、センパイってやつデス」

ウィンクをして巻き戻しの様にウネウネと動いて元いた場所まで戻っていく。

「・・・・・・で、何の話をしていた?」

スズハが剣を抜き、コンクリート?の床に突き刺す。

深々と刺さる剣は、スズハの怒りをあらわにしている。

「えっと、その・・・・・・」

言葉を濁す美沙希を他所に、少女が口を開く。

「私と彼は、一緒に自衛隊で活動していたんデスヨ。感動の再開と言うものデス!」

ニッコリと、ひまわりが咲いた様に笑顔を向ける少女だが、それを見たスズハとミリタリナは、また目を据わらせて笑う。

「お前、無理矢理ミサキに話を合わせようとしていないか?」

「ええ、色々と不自然です。声も震えている、何か隠してますね」

それは二人のせいなのは明らかだが、自覚が無いというのは非常にタチが悪い。

「それは、アナタ達が脅してくるからじゃないデスカッ!脅されてる私はスゴく怖いんデスヨ!?」

(良く反論した・・・・・・名前なんだ、こいつ)

「なあ、最初に聞くべき事だったんだけど、名前聞いてもいいか?」

「ああ、そうデスネ。私は天音シャルロット、デス。アナタはミサキで、合ってマスネ?」

「おう、そうだ。よろしくな」

握手をしようと手を伸ばすが、シャルロットは縛られていて手が出せない。

美沙希は、その代わりに帽子で隠れた頭を撫でた。

「oh・・・・・・ヨロシクデス・・・・・・」

顔が前髪で見えないが、耳が真っ赤に染まっているのは分かる。元々シャルロットは肌が色白というのもあって、染まった耳はピンク色に近い。

「なあ、自衛隊所属つっても、この世界じゃそんな大規模な組織は作れないだろ。どうしてるんだ?」

美沙希が聞くと、シャルロットは苦笑いで、

「無職デス」

とだけ言った。

「無職って、今までどうやって生きてきたんだよ」

「ミサキ、私を舐めちゃいけマセン。私は軍人、SurvivalMasterサバイバルマスターデス!食べれそうな動物達に感謝し、大事に頂きマシタ!」

自給自足していたというのだろうか、サバイバルの精神からして、かなりの上級者だろう。

流石は軍人、生きるすべを熟知している。

「何の話をしているんだお前たちは・・・・・・グンジン?ジエイタイ?サバイバル?」

スズハが眉間を押さえて項垂うなだれる。

そこで、美沙希は提案する。

「なあ、シャルロットのやつ、ここに入学出来ないか?」

美沙希の言葉を予想していなかった二人は、更に冷汗を掻く。

「え、ちょ、ちょっと待って下さい。展開が急過ぎてついていけません」

「それは私達の判断ではどうしようも・・・・・・いや、しかし・・・・・・」

美沙希は、更に追い打ちを掛ける。

「それと、シャルロットは迷い人、俺と同じだぞ」

ミリタリナとスズハの顔は少しずつ青ざめていく。

「ま、まてまて。どうなっている、迷い人は十年に一度現れるか現れないかと言われているんだぞ。そんな頻繁に現れる物なのか?」

「でも、お前たちも見たんだろ?落ちてきた所」

美沙希は、射撃場に落ちてきたのを利用して、状況を上手く持っていく。

嘘を吐くのは少し心が痛むが、致し方ない。

「その事を学園長に言えば入学を許可してくれるんじゃないか?」

学園長が誰なのか美沙希は知らないが、迷い人、しかも性別が女となれば積極的に上も動いてくれるだろう。

そんな事に期待しながら、美沙希はシャルロットのを縛る縄をナイフで切る。

「勝手な事で悪いが、これからは自分の判断で動かせてもらう。同じ境遇の人を放っておくなんていう、落ちぶれた人間じゃないからな、俺は」

ミリタリナとスズハは深海より深いため息をつき、肩を下ろす。

美沙希達は、学園長の元へ向かう為、鉄壁の部屋から出た。



◆◇◆◇◆◇◆



「えっと、ミサキ。助けてくれてありがとうございマス」

学園内を歩いてる途中、シャルロットがお礼を言う。

美沙希は助けたなんて思っていない。これが美沙希がする普通の対応なのだ。

(助けるのは、普通だよな?)

美沙希は、変な不安感をいだく。

「・・・・・・いや、お礼を言われる様な事は何も」

美沙希はさとられないよう、自然に振舞う。

長い前髪で顔を半分以上隠し、シャルロットの視線から離れるように移動する。

「ンン?どうかしまシタカ?」

シャルロットはそんな美咲の動きを不思議に思い、前に回り込んで顔を伺う。

「っ!なんだよっ?」

驚いた美沙希は足を止め、銃に手を掛け―――――るのをギリギリの所で止め、自然に腕を下ろす。

「心臓に悪いぞ、シャルロット・・・・・・」

「oh!やっと名前で呼んでくれマシタっ。これも大きな一歩、デスヨネ!?」

「やかましいぞ。切られたいか」

「スミマセンデシタ」

完全に片言だった。

シャルロットはミリタリナとスズハに腕を掴まれる。それを見た美沙希は刑務所に送られ、はなばなれになったカップルの彼氏側のような感覚を覚えた。

「ミ、ミサキ~・・・・・・」

涙目で助けを求めるが、ミリタリナとスズハがそれを許さない。

今のミリタリナとスズハは妙にピリピリとしており、緊張が顔に浮かんでいる。

学園長の部屋に行く前に、ミリタリナに「絶対に気を抜かないで下さい」と、妙な忠告を受けた。

意味は良く分からなかったが、それを伝えたミリタリナの顔はゲームに出てくるヒロインがラスボス前に気合を入れる場面にそっくりだった。

「着きました。では、忠告通り、気をつけて下さい」

ミリタリナはそう言うと、大きな扉をノックする。

「どうぞー、入って入ってー」

中から気が抜ける様な声が聞こえる。

「失礼します」

ミリタリナは扉を開け、学園長室に入っていく。

「・・・・・・あ、あれ?」

中から声がしたが、見渡す限り人の気配は感じない。

が――――――

「シャルロット、わかるな」

「ハイ、隠れてますネ」

ミサキとシャルロットは銃を抜き、扉を背にして部屋を見渡す。

その場でしゃがみ、椅子や机を飛び越えて奥にある大きなテーブルへと回り込む。

二人同時に銃を向ける。が、テーブルの下には誰もいなかった。

「―――――――ッ!!ミサキ、後ろデス!!」

「ッ!?」

後ろの窓が勢い良く開き、カーテンを破り捨てて何かが部屋に侵入してきた。

それを避ける事が出来ず、美沙希はそれを腹に受けて倒れ込む。

「いっでぇッ!?」

横腹に強い鈍痛が響き、顔を歪める。

腹の上に妙な重みを感じて、目を開く。

「君達が迷い人だねッ?こんにちわー!」

美沙希の腹の上で、妙にテンションの高い人間が一人。

「だ、だから気を抜かないでと言ったのに・・・・・・」

ミリタリナが項垂れて涙目になる。

「はぁ・・・・・・・・・」

スズハはこうなる事を予想していたかのように、深いため息をつく。

「学園長、そろそろ離れたらどうですか。風紀を乱すのはよくありません」

スズハがキツく言うと、腹の上に乗っている少女は飛び上がって机の上に立つ。

「え、学園長っ?」

「おうよー、学園長のアコ・エネレスト・ドランシーでーす!よろしくぅ!!」

そう名乗ったのは、身長がミリタリナ達よりも低く、子供にしか見えない容姿を持った幼女であった。


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