第一章 迷い人
自分がこんなのが書きたい!と思ったものを自分なりに書いたものです。
訳の分からない描写等があると思います。
初心者の投稿ですので、まだまだ至らない所が多いと思いますが、宜しくお願いします。
「こちら04、ターゲットを確認した。指示を」
薄暗い部屋の中で耳元のインカムに喋りかける
雨の激しい夜、スナイパーライフル、チェイ・タックM200インターベンションを窓から覗かせる。
『よし、ターゲットが入室後、殺せ』
「――――――――了解」
グリップを握る手に力を入れる。
今回の殺害対象は、政府関係者の『峰傘健三』と呼ばれる男だ。
表では信頼のある政治家だが、裏では幼い子供の拉致監禁、暴行を主導している下衆。それを殺害するのが仕事だ。
自分も過去に似たような事をされた。だからだろう、無償に怒りが湧いてくる。
「――――――――ッ。来た」
峰傘がビルの個室に入り、スーツを脱ぎ始めたのと同時に、インターベンションのトリガーを引く。
窓ガラスを割って銃弾が侵入し、峰傘の頭に吸い込まれるように着弾、血の花を咲かせる。
白いベッド血液で彩る峰傘をスコープ越しに一瞥し、インカムに声を送る。
「・・・・・・・・・ターゲットの殺害を確認。報酬は口座に振り込んでおけ」
薄暗い部屋、離れた場所にある使われていない大きなマンションの部屋で銃を片付ける。
『了解だ。今夜はちゃんと寝るんだぞ、美沙希』
「その名前で呼ぶなって何回言った?お前、撃ち抜くぞ」
インカムから聞こえる男の声にイラッとする。
(何で、女みたいな名前を付けられたのやら・・・・・・)
コードネーム『04』を持つ、昼間はごく普通の男子高校生『弓坂美沙希』は、女のような顔をし、尚且つ好かない相手にはとことん暴言を吐く、中々肝の据わった男だ。愛銃『チェイ・タックM200インターベンション』を常に持ち歩き、依頼を受け報酬を払えば誰でも殺す、業界で有名な暗殺者集団『0《ゼロ》』の一員でもある。
「・・・・・・俺は帰る。明日の朝講座確認して振り込まれてなかったら、命は無いと思えよ」
『わかったよ。ああ、おっかない04だこと』
耳からインカムを取り、握り潰す。
そうする事で、奴との関係を無かった事にする。
美沙希は部屋を出て、ドアにリモコン爆弾を仕掛けてからマンションを出る。
雨が地面を叩く音が大きくなっていく。通行人も誰もいない、ましてや周囲は既に廃マンションで視界を埋め尽くしている。
避雷針に雷が落ちる音に合わせてリモコンのボタンを押す。
刹那、仕掛けた爆弾が炸裂、マンションの部屋を吹き飛ばす。
雨の音、雷の音に混じって爆弾が起動、周囲に人がいてもそうそうバレないだろう。
美沙希は爆弾が炸裂したのを確認した後、インターベンションが入ったライフルケースを手で握り、黒のジャケットに付いているフードを深く被り、雨を凌ぐ。
「・・・・・・・・・寒い」
凍え、震える腕を抱き、美沙希は暗闇に姿を消していった。
◆◇◆◇◆◇◆
昨日の大雨が嘘の様に太陽が照りつける。
しかし、雨が降ったのは本当で、証拠にコンクリートの地面に大きな水溜りがいくつもある。
美沙希は、自分の家の前にあった水溜りを強く踏み、一日の気合を入れた。
が、家の前を通る登校中の高校生、主婦、ジョギング中のカップルが美沙希を見てクスクスと笑う。
美沙希は、それを見て頬を赤らめる。
「・・・・・餓鬼見たいだな、やめよう」
雨の雫が付いた靴を振り、水溜りを大股で跨ぐ。
「遅刻するな・・・・・・行こう」
美沙希は照りつける日光を背に、学校へと歩き出す。
◆◇◆◇◆◇◆
この地域の学生の殆どが通う公立高校、七海高校の2年B組の教室に入ると、一人の男子生徒に声を掛けられる。
「おっ、きたな美少女」
「それ、挨拶か。殺すぞ」
「うっわ、そんな可愛い顔して暴言吐くなよ興奮するだろ?」
美沙希の前の席に座る金髪美少年(ただし心は腐っている)『日下部直人』だ。
ドMなのにも関わらず女子からの人気が高く、友達も多い。男子の友達も多く、信頼も厚い男だ。
クラス委員なんてやっている、見た目に反して優等生という、不思議な奴だ。
「そういえば、昨日何してたんだよ。連絡入れたのに返事なかったからよ」
「すまん、長風呂してた。その後携帯も確認せずに寝ちゃって」
「そっか。案外可愛い所あるんだな」
キラキラスマイルで言う直人の鼻の頭を狙って渾身の右ストレートを放つ。
「いでっ!?何すんだよっ!?」
「いつものことだろ」
美沙希は女のような扱いを受けるのが非常に嫌いだ。
現に、直人の鼻を殴っている。これが毎日のように続いている。
「でも、長風呂っていってもすぐのぼせちまうだろ」
鼻の痛みをすっかり忘れてすぐに真顔になり、質問してくる。
「あ、ああ。いつもより長めに浸かってただけだし、大丈夫」
昨日の夜、雨にずっと打たれて身体が冷えてしまった。だから長風呂してしまったのだが、それを直人に言う義理は無い。
「俺の事を気にするより彼女に気を配らせたらどうだ?」
直人は彼女持ちで、学校内でも有名なカップルだ。それを良く思っていない者もいるそうだが。
ドMでも彼女ができるという現実を知る事が出来た直人は泣きながら喜んでいたが。
「バッカお前、俺が彼女を大切にしない訳無いだろ?ラブラブだっての」
そういって、携帯を取り出し、待ち受けを見せてくる。
「ほら、可愛いだろ?」
「・・・・・・・・・お、おう」
何というか、巨大な温もりを画面越しから伝えるような風格をした女性が写っていた。
「なあ、直人。お前デブ専なのか?」
「ん?そうだけど?」
色々残念なクラス委員でイケメンな友達だった。
「その事、彼女に言わない方がいいぞ」
「え、もう言っちゃってるよ?」
「良く彼女それを許容したな・・・・・・」
直人だけでなく、彼女も色々残念そうだ。
このカップルを良く思っていない者の気持ちが痛い程伝わってきた美沙希だった。
そんな汚れた空気を入れ替える様にチャイムが鳴る。
「ちゃんと授業受けろよ?彼女に現を抜かさないで」
「お前は母ちゃんかよ」
担任が教室に入って来たのと同時に直人は前を向き、朝の挨拶をする。
起立、礼、着席をした後に、携帯のバイブレーションがポケットの中で鳴る。
携帯を取り出し、メールを開く。
『宛先 01
件名 無し
本文 昼放課迎えに行く。』
「・・・・・・・・・」
担任にバレない様に画面をタップしていく。
『宛先 01
件名 Re:
本文 待ってる』
シンプルな文章だが、伝えたい事が伝わるのであれば何でもいい。
そうこう考えている間に午前中の授業が終わり、昼食の時間になった。
◆◇◆◇◆◇◆
「美沙希、飯食いに行こうぜ」
「・・・・・・あ、いや、今日はちょっと無理だ」
美沙希、と下の名前で呼ばれたことに対して少しイラッとしたが、誘いに乗れなかったことに対して少し罪悪感が来たので怒るに怒れない。
「誰かと先約か?」
「まぁ、そんなもの」
そういうと目をキラキラと輝かせて体を美沙希の席に乗り出してくる。
「まさか、女かっ?」
「女、と言えば、女」
「おお、遂にお前にも浮いた話が出てきたか」
「お父さんかよ、お前は」
呆れた顔で直人の頭を軽く叩く。
「失礼、ここに美沙希は居るか?」
廊下から、良く知る女性の声が聞こえてきた。
ハッキリした声音、凛とした女性らしい整った顔、長いポニーテール。
「は、はいっ、あそこに居ます」
「ありがとう」
そう言って、教室に入ってくる。
声を掛けられた女生徒は、黄色い声を上げる。
「え、兜森先輩っ!?」
美沙希の隣に来た女生徒、兜森蒼波を見て直人が目を開く。
「迎えに来たぞ、美沙希」
「下の名前で呼ばないで下さいって何度も言ってますよね?」
「まあ、細かい事はいい、行こうか。済まないな、日下部君」
「あ、はい」
美沙希は無理矢理腕を取られ、席を立たされる。
教室を出てから通り過ぎる生徒達に白い目で見られたが、気にしないでおくのが一番だ。
校舎裏の体育倉庫前、人目が無くなった所で兜森蒼波の腕を振り払う。
「・・・・・・下の名前で呼ぶなっていったろ」
「いいだろう、私達の中だ」
そう言って、蒼波は美沙希の頭を撫でる。
「子供扱いすんな」
その手を払い、怒気を含めた視線を送る。
「まあ、君がそういうのなら止めようか」
腰に手を当ててポケットから折り畳んだプリントを寄越してくる。
それを受け取り、近くにるベンチへと腰を下ろす。内容は、昨日の政治家殺害の事だろう。
「案外頭を使ったな。雷が近辺に落ちたのと同時にお前の居た廃マンションを爆破、音を抑える。証拠を消すには些か派手だが、まあいい。今日の朝、峰傘死亡のニュースが流れていたな」
「ああ、それがどうした」
「報告が来た。峰傘はハズレだ」
「ハズレって、どういう――――――――」
「解らないか、子供の拉致監禁を主導している者は他にもいる。複数のグループで行動しているそうだ」
「・・・・・・・・・クソが」
そこまでして拉致監禁を続ける理由が分からない。
美沙希は心の底から酷くドロッとした怒りが湧いてくる。
「今日の夜、奴等を殺す。それが今日の仕事だ」
「連続で?珍しいな」
「クライアントがせっかちな人でな。お前も良く知っているだろう」
「ああ、嫌と言う程」
「その人が珍しく焦りながら連絡を寄越してきてな――――――っと、時間が無くなってしまう。これは私の奢りだ、食べておけ」
そう言って、あんぱんとパックのコーヒー牛乳を寄越してくる。
それをありがたく頂き、あんぱんを齧る。
「犬みたいだな」
「うっさい」
あんぱんを飲み込み、コーヒー牛乳のパックにストローを刺してそれを流す。
「猫みたいだな」
「お前、その口縫い付けるぞ」
「やってみるか?」
不敵な笑みを浮かべてデコピンをかましてくる。これが妙に痛い。
「お前といると自分が自分でいられなくなる。実に不愉快だ」
飲み干したコーヒー牛乳のパックを握り潰し、近くのゴミ箱にフルスイングで投げ入れる。
バコォン!と破裂音に近い音を出したゴミ箱のフタが綺麗に弾け飛ぶ。
「その口、近い内塞いでやるよ」
「何で、塞いでくれるのかな?」
蒼波はそう言いながら自分の唇を指で数回叩く。
その動きが妙に色っぽく、美沙希の頬が赤くなる。
「な、何期待してんだよ。馬鹿か、アンタ」
この場にいる事が段々恥ずかしくなり、美沙希は教室へと早歩きで向かう。
それを姿が見えなくなるまで見ていた蒼波は頭を掻く。
「んん?女っぽくしてみたんだが、美沙希には効かんらしいな。もう少し研究してみるか」
スカートに付いた砂を払い、携帯を取り出す。
画面を素早くタップしていき、簡単な文章を書く。宛先を美沙希に設定して送信する。
「・・・・・・さて、私も教室に戻ろうかな」
長いポニーテールを揺らし、校舎内へと入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆
また、雨が降っている。昨日の夜よりも、大きな音を立てて地面を叩く。
黒のライフルケースを背負い、長い髪を纏めて帽子を被る。
黒一色の服装に、大振りのナイフ二本、H&K USPを一丁、そして愛銃のM200インターベンションを装備し、黒のワンボックスカーに乗って現地へ向かう。
「ねえ04、間違ってもあたしを撃たないでよ」
「うっかり殺したら謝る。あ、死んでんだから謝れないな、先に謝っとくごめん」
「可愛い顔して酷い事言うわね」
「喧嘩を売るならあっちにしろ、03」
美沙希に03と呼ばれる金髪のギャル、龍ケ崎明乃は、自分の愛銃S&Wシグマ四丁を自作のガンケースに入れて髪を纏めている。
「お前達、今日の仕事は極めて異例、奴等のアジトに突撃だ」
今日入った仕事、その内容には目と耳を疑った。
美沙希達『0《ゼロ》』に、傭兵部隊に依頼するような仕事を入れてきた男からコンタクトが来た。
『夏目太輔』その人が、今美沙希達の前に居る。
「美沙希ちゃんには昨日の仕事でお世話になった。が、峰傘はフェイク、囮だった。奴等は集団で行動している、次々と子供達が集められ、暴行を受けている。これは何故か、美沙希ちゃんが良く分かっている筈だ」
眼鏡を掛け直し、ワンボックスカーの中にある薄型ディスプレイに殺害対象の写真を写していく。
「この三人の男達が、主導して子供達を拉致監禁している。こいつらを、君達『0』に、殺して欲しい」
「・・・・・・最初に仕事を受けた時は理由を聞かなかったけど、今聞いていいか?」
「・・・・・・あまり、言いたくないんだがね、まあいいだろう」
夏目は、スーツの内ポケットから携帯を取り出し、ディスプレイに送信する。
大きく表示、拡大された写真には、まだ幼い女の子と男の子がブランコで仲良く遊んでいた。
その真ん中には夏目と、その奥さんが家族で写真を撮っていた。数少ない家族写真だそうだ。
「私は、妻と娘、息子をこいつらに拉致され、遺体で帰って来た。復讐、ただその一言だけを頭に入れ、こいつらの部下になり、情報を集め、今、この場にいる」
眼鏡を外し、涙を拭く。今の夏目は、復讐に取り憑かれた鬼そのものの様に目を赤く充血させている。
「だが、私に力は無い。奴らの組織を壊す様な、巨大な力は無い。だから、君達を頼ったんだ」
「・・・・・・理由は分かった。でも、アンタは出張るなよ。邪魔だ」
「わかったよ。頼んだ」
会話が終わると、ワンボックスカーがブレーキを掛け、停車する。
ドアが開き、冷たい空気が入ってくる。
車から降り、フードを被って雨を凌ぐ。
「さて、仕事の始まりだ」
運転手兼『0』リーダー01の、兜森蒼波が、全身黒の服装でそこに立っていた。
◆◇◆◇◆◇◆
山奥にある隠れ家の様な場所に政府関係者の男三人が密会をするという情報に従って、作戦を立てた。
それが、今回の奇襲だ。
勿論周辺には護衛が配置されて、装備までして立っている。
『―――――――聞こえるかしら、04』
眠たそうな声が美沙希のインカムから聞こえる。
「聞こえるぞ、02《ゼロニ》」
02と呼ばれるのは、電子機器を駆使して01、03、04をサポートする係の女だ。
『もう01、03には伝えてあるけど、今回敵の防衛戦は厚過ぎる。突破するのは難しい。そこで、貴方の狙撃を最大限に活かさなければならないの』
周りは森、しかも急な斜面、狙撃ポイントは極僅かに限られる。
『でも、私も出来る範囲で貴方達をサポートする。頑張って』
そう言って、インカムの通信が切れる。
「結局、何が言いたかったんだか」
元々狙撃は04、美沙希のポジション、03が狙撃ポジション防衛、01が前衛。
今回の仕事の要は01、蒼波だ。
『時間だ。全員配置に付け―――――――――さて、お仕事開始だ』
『「「了解」」』
「04、あたしが守ってあげるから、感謝しなさいよ」
「お前後ろから撃つぞ」
『二人共、仕事中よ』
突如、暗い森の中で銃撃音が響く。01が撃ったんだろう。
「――――――01、サポート入る」
インターベンションの照準器を覗き込み、見える範囲の敵護衛の頭を撃ち抜いていく。
敵の殆どがAK-47を装備しているのを確認し、木から身を出して狙い、狙撃する。
「03、敵後衛の奴等は殆ど殺った。上がるぞ」
「りょうかーい、足元、気を付けなよ」
雨でグチャグチャになっている土を強く踏み込みながら坂を上がっていく。
寄ってくる敵を03が射撃、格闘で沈めていき、道を開ける。
「03、破砕手榴弾を投げろ。敵のど真ん中でいい」
「指図すんなっつー・・・・・・のッ!」
ピンを抜き、ソフトボール部部長の肩を使って遠投する。
見事敵のど真ん中に落ちる―――――――、一歩手前、グレネードを射撃する。
爆破に巻き込まれて吹き飛ぶ敵を一瞥し、隠れ家の下のスペースに隠れる。
前衛は殆ど01が潰し、数分で敵護衛を制圧した。
『中に例の男三人と、護衛が各一人に一人付いてる。03、制圧しなさい』
「りょうかい。ささっとやるよー!」
ドアノブを破壊、中に硝煙手榴弾を投げ込む。
それと同時に窓からもスモークグレネードを入れる。
どちらから入ってくるか迷わせつつ、03と01は床を破って侵入する。
二重偽装で中を混乱させ、全員を撃ち殺す。
「・・・・・・・・・終わったぞ」
「こっちも終わった。ささっと帰ろうか」
中から出て、暗視ゴーグルを外す。
「早く下へ降りよう。足場も悪い、慎重に――――――」
『02より全員に、敵の増援よッ!!』
「クソッ――――――――!」
上からも見えるが、麓から数十人、小隊規模の増援がいくつも来た。
「ここから潰せる奴は潰す、お前らは逃げろッ!」
美沙希は01、03にそう言い、麓目掛けて駆け出す。
木に凭れ、呼吸を整える。弾倉リロードし、銃口を下の増援部隊に向ける。
狙いは、増援部隊の乗る73式大型トラックの燃料タンクだ。
照準を合わせ、トリガーを引く。
「おい、02ッ!!何で陸上自衛隊の車両が来てるんだッ!?」
ストライプ柄の軍用装備を着用した軍人が、麓から美沙希達目掛けて登ってくる。まるで、位置がバレているように。
『ちょっと待って、解析する。もう少し時間を――――――――』
「02?おい、02ッ!?」
急に通信が切れた。
(嫌な予感がする――――――――急いで下に降りないと)
美沙希はインターベンションをライフルケースに急いで仕舞い、腰からH&K USPを取り出す。
「待て、美沙希ッ!!」
01、蒼波の静止も聞かず、ただ山を下っていく。
「あたしが行ってくるよ、待ってて」
明乃がシグマを二挺拳銃として構える。
(な、なにこの数っ!?)
明乃は登ってくる小隊規模の軍人達を見て絶句する。
小隊の合同訓練でもするのかと思う位の人数がM4構えて登ってくるのだ。
「04、美沙希ッ!!止まれって、おーい!!」
明乃の静止すら聞かず、先へ進んで行く美沙希。
美沙希は、雨の中に消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆
「クッソ・・・・・・どこだ、ここ?」
確かに、麓に着いたが、位置が特定出来ない。しかも、軍用車両が何台も止まっている。
迂闊に動けば見つかって、最悪殺される。既に山の上で大量殺人を犯しているのだ、捕まれば死ぬと思っていいだろう。
(02に通信入れても返事が無い。訳が分からない・・・・・・!)
帽子を脱ぎ捨て、髪を纏めていたゴムを取る。雨で濡れて顔にへばり付く長い髪を退けながら、黒のワンボックスカーを探して歩き続ける。
その中、奥で光る物が見えた。
(車・・・・・・ワンボックスかッ!?)
美沙希は走って光の元へと向かい、足を止める。
「違う、これ―――――――誰の車だ?」
黒のランボルギーニが停まっており、中が全く見えない様になっている。
(誰の車かは知らないけど、近くにいたら見つかる。逃げよう――――)
ランボルギーニから離れ、出来るだけ遠くの所へと逃げようとした時、上から発砲音と爆発音が聞こえた。
「―――――――01、03、出てくれ、今どこだッ!」
雑音が入るだけで、何も聞こえない。
美沙希は上へ戻る為に、山目掛けて駆け出す。
が、突如発砲音が響き、美沙希は足を崩す。血が左足首を伝って雨に溶けていく。
「ぐっ・・・・・・いってぇ・・・・・・ッ!」
発砲音がした方向にUSPを向けて数発撃つ。しかし、当たる事無く、次の発砲が来る。
それを間一髪前転で避け、痛む足を引きずって奥へ逃げる。
「逃がさないわよ」
次の発砲、それを右足に食らい、美沙希はその場に倒れる。
「これで、逃げ切れないわね、04」
長い銀髪を濡らし、その手にFNファイブセブンを持ってランボルギーニの車体に手を置く人物。
「お、お前、02ッ・・・・・・!」
連絡が途絶え、行方がわからなかった02が、美沙希の前に現れた。
その隣には、夏目がベレッタAR70を両手に持って美沙希を見下す。
「死んでないのか」
「殺す必要は無いわ。彼には、やってもらわなければいけない事がある」
(こいつら、一体何のつもりだ?)
「暫く、寝ていなさい」
後頭部に強い衝撃を食らい、美沙希は気を失いかける。
「―――――――ッ!」
血が滲む程の力で歯を食いしばり、痛みに耐える。
「02、もう殺した方がいいぞ」
「―――――――――そうね、役に立つとは思えない」
ファイブセブンを頭に突き付け、トリガーを引く02。
その一瞬に、美沙希は腰のグレネードのピンを抜いた。
「ッ!?逃げなさい夏目ッ!!」
02と夏目は美沙希から離れ、ランボルギーニに乗り込む。すぐにエンジンが温まり、バックで加速していくのを他所に、グレネードが起爆した。
それから、美沙希の意識は無い。死んだのだ、弓坂美沙希は。
◆◇◆◇◆◇◆
大草原が、広がっていた。
「・・・・・・・・・え?」
目を覚ますと、絵に書いたように美しい大草原が視界を埋め尽くしていた。
立ち上がると下には町があり、ここが日本ではない事がハッキリ分かる。
「ッ!?あ、足の傷が無いッ!?」
02に撃たれた筈の美沙希の足には、綺麗さっぱり傷がなくなっていた。
愛銃の入ったライフルケース、USP、ナイフは服から無くなっていない。しっかり装備された状態だ。
訳が分からず、その場に座り込む。
「なんだよ・・・・・・02の奴、裏切りやがって・・・・・・信頼、してたのに」
02は、自分の母親の様に接してくれた、美沙希の数少ない仲間の一人だった。その仲間から銃を向けられ、殺されかけた。その現実を信じる事が出来ず、美沙希は涙を流す。
「くそ・・・・・・くそっ・・・・・・!」
溢れる涙を草や土が吸い取り、美沙希の流す涙を無駄にしていく。
そこで、気付く。
「01と03、無事なのか・・・・・・?」
味方の安否すら分からない。何もかも、美沙希にはわからなかった。
無事で居てくれればいいが、それを確認する手段も無い。携帯は圏外、通話を掛ける事すら出来ない。
「ここは、どこなんだよ・・・・・・」
立ち上がり、改めて周りを見渡す。大きな町、大きな建物。
「行けば何かが分かるだろ」
町まで道が続いており、それを下っていくと、大きく発展した綺麗な町並みが広がっていた。
(外国・・・・・・?)
何やら祭りの様な催しを開いているらしく、クラッカー等の火薬音が聞こえてくる。
地味と派手の中間の様な服を来た男女が踊って、パレードを行っている。
「すみません、今何やってるんですか?」
通行人に声を掛けると、目をカッ開いて大声を出す。
「迷い人がきたぞぉぉぉおおおおおおおッッ!!」
それを合図に、クラッカーが連続して鳴る。
「なっ―――――――」
先程まで騒がしかった祭りがヒートアップし、楽器の音や人の歌声がスピーカーで拡声される。
人波が押し寄せて、町の人の囲まれ、逃げ場を失う。
「あんたが迷い人なんか、そうなんか!?」
腰の曲がったご老体が手を握って喜んでいる。
そんな事を他所に、後ろの列から馬に乗った女性がやって来た。道を開けるように人が退いていく。
馬から降りた女性は手袋を外し、被っていたフードを取る。
「よくぞいらっしゃいました、迷い人様」
「・・・・・・は?・・・・・・は?」
急な展開に追いつけず、ただ呆然とする事しか出来ない美沙希を他所に、綺麗な銀髪の少女が出迎える。
「ここは、異世界『グランデネス』。貴方様のご生活の場となる町『ミネレスト』です」
「い、異世界?」
「ええ。貴方様が今まで生活していた場所を現存世界、こちらは、世界の裏側、異世界」
そこで知る。
美沙希は、一度現存世界で死んだ。が、死んだ直後に異世界へと呼び出され、生き返った。
一度に訳の分からない事が起き過ぎ、許容範囲を余裕でオーバーしてしまっている。
これからどうなるのか、想像したら頭が痛くなった。
そこで、一気に疲れが襲ってきて、美沙希はその場で気を失った。
「・・・・・・ま、迷い人様?」