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今、必要なおまじない

 ご近所をちょっと探検しようかしら。

 ここの社宅、向かいの単身者用はそこそこ埋まっているのに、家族向けのほうはほとんど入居者が居ないっぽいの。隣も上下も住んでないって……すごいよね。騒ぎ放題?

 ま、近くにちっちゃな商店街とか学校とか一応あるみたいだけれど車かバスがないとどこにもいけないし、それに本当は私も駅近くが良かったかなーなんて。

 ああ、また、マイナス思考。気分転換しようって今思ったばかりなのに。ささ。雪道でも滑らない暖かい雪靴を履いて、出発出発。

 

 ぎぃ、と、玄関の重い扉を開ける。鍵を閉めてすぐに手袋をつける。買い揃える時間がなくってスキー用の。

 吹き込んだ雪がコンクリートの階段の上に敷いた絨毯にはまだ、彼の足跡しかついてない。

 彼の会社、単身者ばっかりってわけでもないでしょうに、他のおうちは単身赴任なのかしら。でも周囲にあんまり気を使わなくていいって悪くはないわね……はい。「プラス」を一個発見。

 プラスでマイナスを打ち消さないとね。

 

 雪の化粧の下、建物全体からまだ新しい匂い。外見と匂いだけは新しいんだけどねっていけない。もう。私、なんでこうすぐに気持ちを切り替えられないのかしら。

 私、なんでこんなに不安になっているのかしら。

 

 やっぱりおまじないが必要なのかな。

 おまじない。そういうとなんか怪しい響きだけれど、そんなたいそうなことはない単なる験担ぎ。ジンクスみたいなもの。

 今必要なおまじないは……

 深呼吸をひとつ。それからそっと彼の足跡に、自分の足を重ねた。

 気持ちを前向きにするときは好きな人の跡を追いかけるの。影を重ねてみたりとか。そうすると。私の気持ちは溶けてゆく。その気持ちの方向へ。

 

 雪の上を歩く音。

 次第に足音が深くなる。雪の厚みが増していっているのかな。雪がまるで植木のように道路わきを飾る道をゆっくりと歩き始める。

 空は広いのに、なんだか圧迫感を感じる。

 んー。

 楽しい方向ってどっちかしら……そうね、まずはバス停のある方角へ歩いてみようっと。

 

 圧倒的な白の隙間から、次に多く見える色は緑。

 やっぱりこちらは緑が多いわね。仙台って「杜の都」だっけ?

 そういえば職場の人が、仙台駅前の並木が切られちゃう計画が出てるとか言ってたわ。植えた当時のお偉いさんの親戚か何かが植木屋さんだったから植えたんだなんて初めて知った。私も一応こっちに住んでたことあるのになぁ。なーんにも知らないの。

 見覚えある景色とかに出遭わないかなー。

 故郷という言葉に漠然としか感じない郷愁を、肌で感じてみたいなんて思ったりもする。「田舎」がある人って羨ましい。私なんて出身が東京じゃない上に「田舎」もない。羨ましいわ、おじいちゃんとかおばあちゃんとか居る人。

 母方のおばあちゃんだけは私が生まれてしばらくは元気だったみたいなんだけど……私の思い出の中には居ない。顔も覚えていないし。一番古いおばあちゃんの記憶には「お葬式」ってことばがくっついている。

 その時、急にあの声が蘇った。

「遺体が残らなかったって」

 おばあちゃんのこと思い出そうとすると決まって親戚の人のあの声を思い出しちゃうの……もしかしたらおばあちゃんのお葬式で聞いた言葉なのかな。

 ドサリッ!


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