古い社宅
あ、そうか。
母が具合悪くなった理由って……おにいちゃんが事故にあったのが仙台だったからとかなのかも。
ん。この話はやっぱり出さないようにしよっと。
それから慌しく年を越し、ドタバタと結婚式を終え、「ずいぶん長い新婚旅行だね」とひやかされつつも私たちはかりそめの仙台市民となった。
仙台の駅からバスで四十分……まではかからないところ。そんな郊外に社宅はあった。
もともとあった古い団地を彼の会社が買い取ってリフォームして、社員寮として再利用しているその社宅。
外見こそは綺麗に整えられているけれど、基本的な構造は古いのよね。うちは4階建ての2階。エレベーターなんてないから2階ってのはありがたくはあるんだけれど眺めがね……向かいの社宅棟が景色を遮ってよくはないの。
もっとも冬の間は景色のほとんどが少し蒼ざめて黒みのある「真っ白」に包まれるから、眺めなんて階数じゃ変わらないかも。
掃除機をかけ終わったので、空気の入れ替えに開けていた窓を閉める。
空気はいいけれど、とっても寒い。そして静か。空気の中に「シーン」って無音が刷り込まれているみたい。
引っ越し当日が一昨日で、昨日は一日中片付け。管理人さんご夫妻のとこにちょっとだけ挨拶周りに言ったくらいでほとんど部屋にこもりっきり。彼は今日から仕事に出かけたから、なんか静寂の中に突然私だけ取り残されたみたいに感じる。
今年は例年よりも雪が多いらしく、昨日もけっこうしっかり降って積もって。
東京に居るときは雪なんてたまにしか降らないから皆ではしゃいだりしてたっけ。電車とかに影響出てもそれでもなんだかわくわくが止まらない、そんなお祭りみたいな空気があったけれど……この雪が日常の中にあると、私もそのうち見飽きるのかしら。
カーテンをちょっとだけ開いて窓の外を見る。やっぱり雪だらけ。って、また降ってきている!
東京の雪とはやっぱり違う。ひとつひとつの雪は軽くて小さくて手のひらに落ちればじわって溶けて消えちゃうくせに、全部の空から全部の地面へと落ちてくる雪は不思議と「重さ」を感じる。
ただただしんしんと降り積もる雪の積もる音が、聞こえるの。ほんとよ。
今の時期だけなのかもしれないけれど、空はいつも雪と同じ色をしている。
お日様だってその空に針で穴を開けたかのような小さなぽつんとした灯りにしか会えない……会えればよいほうな日々。明るくなってから暗くなるまで空の色がずっと鉛色の日だって、少なくないわ。
新しい生活ってことで期待もたくさん持ってきたけれど。その期待もこのどんよりとした寒さの中に凍ってしまいそう。
あーあ。
こっちに居る間は三食昼寝つきでのんびりしててって言ってくれたけれど、やっぱり仕事とかしたいかも。とりあえず荷解きばかりしているのも飽きるからちょっと散歩に行こうかしら。
……正直言うと、引っ越す前に時間がなさ過ぎて、片っ端からダンボールに詰め込んでぜーんぶ持ってきたりしたから、なんだか開けるのが怖いのよね。東京に帰るときの梱包とか考えたらもういっそこのままでもいいかななんて思っちゃう。どっかに出かけることだって少なそうだし。
よし!
それならそれで気分を変えるためのプチピクニック決行!




