雪の中
「咲季ぃーー!」
起き上がりながら鳥居を睨みつけ、大声で呼んでみる。
返事はない。
携帯をスーツの内ポケットにしまうと、最後の障害である階段に手をかけた。
「咲季ぃぃぃ!」
人生で一番体に無理をさせているのが今だと言い切れるくらいがむしゃらに、両手も足のように雪の中の石段にしがみつきながら階段を昇る。いや、登る。
「咲季!」
叫んだあとにヒューと咽が鳴り、ゴホゴホと咳が出る。
その咳に翻弄される体の反動すら使い切って、階段を登りきった。
毒々しい紅の鳥居まるでギロチン台のように頭上にそびえている。ここで立ち止まるわけにはいかないんだ。四つ足のまま、その鳥居の守る内側へと転がり込んだ。
静まり返った境内はそれほど広くない。
周囲は竹林。しかも竹と竹の間の密度は濃い。竹やぶと言うよりは竹垣と言ったほうがよいくらいだ。
バサー……
風にあおられたのか、雪の重みにしなっていたのが戻ったのか、竹が勢いよく雪をまき散らしながら天をまた指す。
バサー……
呆然としている間に、また……ぼんやりしている時間はない。
咲季の足跡を探すのだが竹の悪戯のせいでよくわからなくなっている。
見つからない。
見つからない。
ここも見つからない!
何も痕跡を残さずに……人はここからどこへ消えられるというんだ?
パニックになりそうな頭とひどく痛むわき腹を必死に押さえつけながら黄色を探す。
バサー……
顔にかかる雪を避けようとするが、もつれる足に反乱され、見事に雪の上に滑り込む。
俺が咲季の痕跡消してどうすんだよ!
自分がもう、立っているのか転がっているのかもわからない。
バサー……
今度は雪を頭からかぶる。もう避けたりしない。
見つけることだけに全神経を使うんだ。
……そのせいで頭が冷えたのか、俺は探し方の方法を変えた。
竹から落ちる雪に荒らされた足跡を追って探すんじゃない。この狭い境内で、物理的に行ける場所を全てしらみつぶしにしよう。とりあえず雪の中にたたずむ建物は本堂と手水場。社務所はない。これだけなんだ。
手水場は見るからに小さい。そんなとこは後回しでいい……それよりこの本堂だな……。
木造の古い古い本堂。その扉は白い雪化粧をしているががっちりと大きな錠前がここからでも見える。そしてその扉に至る部分に足跡らしきものは見えない。
中に何が入っているか分からない本堂の周りを眺めながら一周してみることにする。
バサー……ドサドサ
今度落ちてきた雪の塊は特に大きかった……って、まさか咲季、この雪の中に倒れていたりしていないだろうな?
だって昨日だって倒れたんだよ、この神社へと向かう道の麓で。
地面近くまで顔を近づけ、不自然なふくらみがないか探す。もしもここで倒れていたら……泣きそうになる。少しでもふくらんでいるところに走っていって雪の中を掘り返す。二、三回繰り返した時だった。
俺はおそらく見つけられたんだと思う。
大きくない本堂の裏側。
なんだ?
雪をかきわけて掘ったような跡が本堂の下のほうへと続いている。その奥……あれは……暗闇の中に雪の反射する光が届き、わずかに黄色を映していた。
そこにしゃがみこみ、辺りを念入りに調べる……そこにあったのは黄色いダウンコート。黄色、そしてこのデザイン。
咲季のだ。




