かくれんぼ
懐中電灯を手に入れた私は、ちょっと気が大きくなって。
かくれんぼに「いいよ」って答えたんだよね。
かくれんぼはすぐにはじまった。
じゃんけんで負けた私が鬼になって。
降りてきた場所、あの扉の前の階段でしゃがんだら……
……確かナオ君が、「ここだとどっちにかくれたか見えちゃうから、そのへやの中でかぞえなよ」とか言ったのよ。その部屋には隠れられそうな面白いとこなんて何もないってことが、もう確認済みだからって。
扉がしっかりと作られていたのか部屋の中はそれほどカビ臭い匂いがしなくて、幼心に私もそれを望んだ気がする。
この重たい扉を閉めて、扉のところにこう背中向きに座って目を閉じて。
あの頃は体が小さかったから、そこの鉄パイプをつなげたみたいな無骨な長椅子のフレームの隙間に座ることができたっけ。
遠くに走ってゆく音を耳から追い出すように、数を数えて。
そのときに「おまじない」をしたの。そう、そのときだったのよ。
……私は鬼で、そして「じゅう」まで数え終わったとき、遠くでお兄ちゃんたちの声が聞こえた。
大きな声だった。
私のことを驚かせようとしているんだなって思って、そのまま隠れていた。
鬼なのに、私のほうが隠れていた。
向こうからかけっこの足音がいくつも近づいてくる。もうすぐ近くまで。
すごい勢いだったから、ひょっとして私のこと追いてっちゃうのかもって思った。
でも動けなかった。
おにいちゃんたちの悲鳴に近い声が聞こえたから。
「鬼だー!」
鬼って……?
……鬼は、私だよね?
そうやって頭の中にはてなが浮かんでいる間に、おにいちゃんたちの足音が通り過ぎようとした。
それだけじゃなかったの。
おにいちゃんたちに追いついてくる音があった。
商店街の肉屋さんで飼っていた大きな犬が口から出す音に似ていた。
私の背中のすぐ向こう、この扉の向こうで、音が重なったの。
何かが破れる音。
何かが折れる音。
何かが弾ける音。
何かが滴る音。
そしてあの、犬が骨を齧るときのような、ごりごりとした音。
そのまま何かを引きずって行く音。ひとつだけではなく、いくつかの。
あっという間だった気もするし、すごい長い時間をかけて行われたことなのかもしれない。時間の感覚が麻痺していた。
本当に何が何だか分からなくて、恐くて、恐くて、恐くて。
声も出せず、動くこともできず、自分がどんな状況に居るのかも分からず、ただただ固まっていた。いまの私みたいに体も心も痺れていて。なす術もなく扉にもたれて、動けないでいた。
何が起きたのかは分からないんだけど、なんとなく破滅的な事態は理解できていた。
いやだ……なんで?
こわい……
……たすけて。
逃げてしまいたかったけれど、逃げるためにはこの扉を開けなくちゃいけない。
いくつもの向き合いたくない感情が、どろどろとぐるぐると私をどこかへ引きずり込もうとしていた。奈落の底へ。
……朦朧と薄れてゆく意識の中で。私はおまじないをおもいだした。
そう……わたし、この、こわいことは、ゆめなんじゃないかな、っておもいはじめてた。
だって、へんだもの。おにいちゃんや、なおくんたちが、わたしのこと、いじめてこわがらせようとしているだけだよ。
きっと、そう。
でも。




