子どもたちの秘密
振り向いたところでもちろん誰かいるわけもなく、重たい白さに塗りつぶされた景色があるのみだったけど。
街が遠いわ。
しかもその景色には何度も何度も白い点描が上描きされて距離感が塗りつぶされてゆく。遠くが見えなくなる。それは街が消えてゆく感じ。
あの見えなくなった街には昔、私のおにいちゃんや、靖子さんたち兄妹、他の子たちもたくさん住んでいた。
過去形。
ごめんなさいね。
みんなのこと探してくるからね。
もう一度、鳥居に向き直る。
私はいまからここをくぐりぬけるの。昔も確かそうしたはずだから。
大丈夫。私は思い出せるはず。
あのとき何があったのか。
さっきの管理人の奥さんの話。
「神隠し」……警察が、大人たちがどんなに調べても見つからなかった。そうよね。だって私たちの遊び場所。大人は見つけられないもの。
ここまで来て、またひとつ記憶が蘇ったの。
クリアになる記憶に合わせて、雪に邪魔されていた視界も少し晴れてきたような気がする。
私は一礼をしてから鳥居の下をくぐった。
そう。私たちの遊び場所は……。
境内の裏手に回りこむ。小さな本堂の裏側。そして縁の下を覗き込む。
暗闇に閉ざされたその奥の方から、カビた匂いが漂ってくる。これは地面の匂い。それも新鮮な植物を育む大地の匂いじゃなく、下水道とか地面の中を掘っている工事現場とかそういう人工的な穴の中から漂ってくる、肺を蝕みそうな匂い。
私を導くかつての記憶。
この中を這って行くと、奥にスライド式の金属の扉があって、その先に地下へ下りる階段があったの。
その階段を下るとその向こうは広くなっていて……私たちはそこでかくれんぼをしたんだわ。
まだあるその虚ろな穴は、きっと子どもにしか見つけられない魔法の入り口。
私は深呼吸をひとつだけして。階段を目指し縁の下へと潜り込んだ。
ずるりと体を入れて、ちょっと窮屈さを覚える。
そうだよね。もう小学生じゃなんだもん。
羽織っていたダウンコートを脱いでみる。これならイケそうかな。
お気に入りだけどしょうがないよね……雪をちょっとかき出してその上にコートを敷く。その上に寝そべってまた、ずるりと穴の中へ体をねじ込んでみる。
あ、いけるいける!
大人でもなんとか通れるじゃない。コートゾーンを抜けると、地面の冷たさがそれほど厚くない服を通り抜けてすぐに伝わる。
うわー。寒い。コート着るからって油断してたわ……まさか脱ぐことになるなんて……。
ま、でも。ここまで来たら仕方ない。
狭い横穴をかき分けるようにして進む。
この先に扉があるはずなの。
こんな奥に入り口なんて普通は気付かないよね。
最初は外でしていたかくれんぼ。誰かがこの穴に隠れてこうやって奥まで来て、扉を見つけた。
もうそろそろ、かな?
神社の建物のちょうど真ん中あたりの真下まで来ると、錆びた金属の扉がある。
重厚なかんぬきをずらして、ゆっくりと扉を……ジョリジョリジョリと音を立てながら扉は開く。金属と石とが擦れ合うような音。表面が錆びている割には随分とスムーズ。
そうよね。小学生でも平気で開け閉めできるくらいなんだし。
匂いがいっそうキツくなる。
私はその暗闇を覗き込んだ。本当だったらこんな匂いには一秒だって耐えたくない。
でも、こうやって覗き込んだ暗闇の中に、私の失われた記憶があるかもしれない……ううん。多分ある。




