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私のすべきこと

 私だけ……

 まとまりかけた影、正体が分かったつもりになって向き合ったらまたそれが暗い色のシーツで、まだまだもっと深いところに正体があるってことに気付いてしまう。

 少しづつ思い出してきてはいるけれど。

 ……まだ何か大事なこと、忘れているものがある。その大事なことはちゃんと思い出さないといけない気がするの。きっと完全に失くしているんじゃないはず。

 あ。

 そのとき私は気付いた。

 さっき通った思考の中をもう一度歩こうとしたとき。まるで新雪の上に残る足跡みたいにはっきりと見つけたの。さっきは何気なく通り過ぎた思考。

 私、かくれんぼしてたってこと。

 私とみんなの違っていたこと。

 そう。

 私、鬼だった! ……鬼だった私だけが……助かった……?

 自分の中のフックをくまなく探し回る。ひっかかっているもの。出来れば考えたくなかった。でもね、私は思い出したくないものに、向き直ろうとしていた。

 

 だって。

 ……遺体が見つかってないって……それが、ひっかかること。

 ひっかかるの……まだ思い出せないけれど、私……私は何かを知っていたの?

 そして、何を、忘れたの? 何を。

 

 だって。

 ……私のおにいちゃんと、靖子さんのお兄さんと……それから……他にもお友達の……私は、私だけが行方を知っているかもしれないんだもん……

 気付けば皮膚を裂くような寒さ。背筋が凍りついているのはそのせいだけじゃないとは思うんだけれど。その寒さの中で、私の目と頬だけは熱かった。ひりひりと痛かった。

 

「高野しゃん!」

 管理人の奥さんの声でふっと我に返る。

「無理しないで、休まねと」

「あ、そうですね。すいません」

 管理人の奥さんにお礼を言い、足早に部屋へと戻る。靴を脱ぎ、寝室へ行き、ベッドへと倒れこむ。それでも頭の中はまだ、全力疾走しているみたいにぐるぐるとまわり続けていた。

 

 神社。

 神隠し。

 かくれんぼ。

 おにいちゃん。

 遺体は見つからなかった、って……でも私は帰ってきた。

 どうして帰ったんだっけ……? どうやって。

 そしてみんなは、本当は……どうしたの?

 

 眠れない。

 私は顔を手で覆い、数を数えはじめた。

 眠るためじゃなく……あのときの……世界を思い出せたらと思ったから。

「いち、に、さん、よん、ご、ろく、なな、はち、きゅう……じゅう」

 目を覆っていた掌をそっと顔から降ろす。強く強く閉じていた瞼をゆっくりと開ける。

 世界は変わっていない。今の私のまま……あ、小石をポケットにしまってないものね。おまじないのルールまで忘れちゃっていたわ。

 ……思いださなきゃいけない。

 思い出したいというよりは、思い出さなきゃいけない。そうなのよ。決して、戻りたいわけじゃないの。

 ただ、私だけ生きて戻ってきたそのことを無駄にしちゃいけない。それだけ。

 それなのに。

 ひょっとしたらおにいちゃん達を救えるかもしれない、なんて……なんで私、そんなこと考えたんだろう。

 気が付いたら、外へ飛び出していた。

 

 一歩ごとに空気は寒さを増し、肌を切り裂く見えない蔦がこの四肢にまとわりつく。呪縛の葉を茂らせた蔦。何度も挫けそうになる気持ちをつなぎとめていたのは、私だけ残ったのにという使命感。

 ううん、本当はわかっている。何もしなかった自分に対する罪悪感。

 この一歩一歩が、罪を贖うことにつながるなんて考えてはいない。でも、私は歩くのをやめなかった。


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