向き合って見つけたこと
雪をザックザック踏みしめながらバス停へと向かう彼を見送りながら、私を包んでいるぬくぬくとした安心感が急にしぼんでゆくのを感じる。
このどんよりとした冬の空のように、私の心は晴れないままだった。
……彼を見送った時の私の顔……きっと、こわばった笑顔。
お母さんの不器用な笑顔を思い出す。
そういえば昨日も思ったっけ……自分の笑顔がお母さんみたいって……。
笑顔だけじゃない。心配性も遺伝したかのよう。
待って、違う。
晴れないのは気付かないからじゃなく、気付いているから。
私自身がそれを見ようとしていないだけ。
心の曇天を割った一条の光が私の記憶を照らした。
タバコ屋の角……あの場所には何か手がかりがあるような気がする。
私は、それに向き合おうと決めたの。
どのくらい時間が過ぎていたのかしら。
決意したのはいいけれど今、何時よ。私はベッドに横になっている自分を発見した。
彼を見送ったときとほとんど変わらない状態のままの私。性能がいいはずの私の腹時計ですら、お昼過ぎてるのに反応しなかったなんて。
昨日の夜に食べ残したメロンパンを頬張りながら、私は自分の中に生まれた強い衝動をも噛みしめていた。
……いま生まれた?
ううん。実はもっと昔から私の中にずっとあった衝動なんだと思う。とにかく私はその衝動に、気付けたの。
「……おにいちゃん……」
おにいちゃんの事故、笑うことができないお母さん、そして私の思い出せない昔。きっとこの街自体も含めて、どこかでつながっているんじゃないかなって今なら思える。
いつの間にか外へ駆け出していた。
あの商店街を、あのタバコ屋の角を目指しながら……辺りを見直す。
ああ、やっぱり。
この街はなんだか見覚えがある。古くからある建物。遠くの山の稜線。面影が残っている……。
商店街までさしかかったとき、ちょうどバスが着いたのか小学生たちが走って向こうからやってくる。
子どもたちの胸の名札はやっぱりあのチューリップだった。
自然に、足が、速くなる。
タバコ屋の角を曲がって。
あの、小高い丘。
その中腹にある、神社。
雪女の紅い唇のような、真っ白の中の鳥居をもう一度目の当たりにしたとき、私の身体を軽い目眩がこわばらせた。
あの、神社……まだ、記憶が戻りきったわけじゃない。
でも、この寒い冬のさなかに、凍りついていた記憶が、少しづつ溶け出してゆく。
……私は、ここへ、来たことが、ある。そして、あの神社に……そう、あの神社に。
……まだ、全てをはっきりと思い出したわけじゃない。
なんだっけ。
えーと。
そう、誰かと一緒だった。
誰かと……おにいちゃん?
……わからない……でも、一人じゃない……たくさんいて……
どうしたんだっけ。
どうしたの? ……私……足がすくむ。
私……記憶の中に、あの鳥居の紅が、強くフラッシュバックする。
この色……わたし……
……おにいちゃん…………
「おねえちゃん!」




