一話
二人で種をまいたのだ。
木枯らしぴーぷー吹きすさぶ、寒い河原のすみっこで。
二人でしゃがんで、丸っこくなって。
それは草花の種だった。黄色い花が咲くらしい。
四角い紙袋の写真には、丸くひらいた黄金の花びら。タンポポみたいな花らしい。
隣で膝をかかえているのは、知りあったばかりの女の子。苗字は、知らない。
僕はその女の子のことを、アヤちゃんと呼んでいた。
僕らは毎日、種の様子を見に行った。芽が出ていないか、土が乾いていないか。
うちから持ってきたペットボトルの水を、ドキドキしながら、ドボドボかけた。
早く大きくなあれ。
けれど、芽は、いつまでたっても出なかった。
「あ、ねえ、もしかしたら、ひりょうとかが、ひつよう?」
地面を覗いたアヤちゃんが、くるりと僕を振りむいた。膝をかかえて、僕はこたえる。
「……しらない」
てか、「ひりょう」って、なんだ?
しょんぼりしてしまった女の子の手前、僕は口をとんがらせ、運動靴の親指の先、膝下の土をツンツンつついた。
「コイツさあ、ほんとはサボってんじゃねえの」
わざと、乱暴な言葉で言ってやった。自分のことだって、もちろん「オレ」だ。絶対ここでしか言わないけれど。だって、かあさんの前でそんなこと言ったら、すぐにこっぴどく叱られる。でも、ここはちょっとカッコつけとかなきゃいけない、みたいな気がしたのだ。そう、男として!
僕は内緒で気合をいれた。
土手には、野良犬がうろうろしている。怪しいおじさんだって、たまに出る。悪い奴が襲ってきたら、僕がこの手で、アヤちゃんを守ってやらなきゃいけないのだ。
そんなある日のことだった。
僕はぬかりなく警戒しつつ「なかなか出ないね……」とボヤいていた。そんな僕にアヤちゃんは、お姉さんぶって得意げに言った。
「だいじょうぶよ。春になったら、お花がさくわ」
僕はちょっと傷ついた。それじゃあまるで、僕がなんにも知らない子供みたいじゃないか。アヤちゃんだって、ママにきいてきたくせに。絶対そうに決まってる。
シャベルで掘って色が変わった黒土を、面白くない思いで、じっと見た。めんどくさい。花ってやつは、すぐには咲かないものらしい。その頃の僕らは知らなかったけれど。
アヤちゃんの言う「春」までは、とてつもなく長い時間だった。そう、この頃の一日はとてもとても長かったのだ。次のジャンプの発売日だって、全然待ちきれてなかったくらいだ。
アヤちゃんは、ちょこんとしゃがみこみ、両手で膝をかかえている。
「きれいなお花がさくと、いいねえ。あ、ねえ、春になったら、コウヘイちゃんも──」
不機嫌な僕を気にしたらしく、にっこり笑って振りむいた。
「アヤといっしょに、お花、見ようね」
「……約束だぞ」
僕はそっぽを向いて返事をした。だって、僕のプライドはズタズタなのだ。
「うん、約束。じゃあねえ、アヤと指きりげんまんっ!」
アヤちゃんが首をかしげて、僕の顔を覗きこんだ。ちいさい小指を立ててくる。
ふっくらした頬の線。冬の弱々しい太陽が、柔らかく包んで縁どった。目をそらしてしまったのは、きっと太陽がまぶしかったせいだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークやご評価をぜひお願いします。
読者さまからのご評価が、執筆の励みになります。
何卒よろしくお願いします (*^^*) かりん
※「評価」は このページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。




