嬉しい季節
『うぅ‥さむっ。』
私は小さい声で呟いた。
今は朝の七時半。まだまだ寒い時間。私は吹奏楽の朝練のため学校に向かっている。
それにしても寒い。
『さーむーいー。』
私はまた呟く。
手袋・マフラーをちゃんとつけてカイロまで持っているというのにまだ寒い。
私が唸りながら歩いていたら‥‥
ポンッ
頭に手が‥‥
『キャッ!』
メチャクチャ驚いた。
だってこんな時間に頭に手を乗せられるなんてほとんどないから。
私はそーっと後ろを向いた。
『何驚いてんだよ。』
そこには幼馴染みのあいつがいた。
『いきなり何すんのよ!』『いやーなんかさぁちっせーダルマがいるなーって思ってさ。』
あいつは笑いながら言った。
『あんたの方がダルマみたいじゃん!』
私も言い返す。
あいつ・谷原真は重そうなダッフルコートを着ている。
『いーんだよ。俺は。寒いから。』
真はそう言った。
この時期になると決まってあったかそうなというか重そうなダッフルコートを着てくる。
私が『もっと軽くてあったかいの着れば?』と言っても『これが一番ポケットが大きいから』とか変な答えを返してくるし‥‥。
『ねぇねぇ。』
『ん?』
『もっと良いコート買ったら?』
『余計なお世話。』
『だってこれ重そうだよ。』
私は毎年のように言ってることを言う。
『俺は好きでこれ着てんの。』
真はそう言葉を返す。
そして手をつきだしてきた。
『?どうしたの。』
『手。』
『手がどうかしたの?』
私は良くわからなくて聞く。
『だから、お前の左手よこせって。』
『ん?』
私はまだ良くわからないまま真の手に左手を乗せる。すると真は私の手を握って自分のポケットに入れた。
『‥‥何してんの。』
『お前冷え症だからなー、この方があったかいだろ?』
真は笑って言った。
『うん。』
私は頷いた。私は真が好きだ。だからもの凄くドキドキする。
なんだか心まであったかくなってきた今日この頃。
ちなみに、この二人は両想いなのだけど、それに気付くのはのはもうちょっと先の話。