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勇者と魔王が手を組んで世界を支配してみた 〜最強な彼らは最適な選択をする〜

作者: イーグル
掲載日:2026/10/27

 暗闇が支配する森をアテもなく少年は進み続ける。


 歩く度に短めのサラッとした金髪と共に、地面を引きずりそうな程に長い背中の青いマントが揺れ動く。


「地図とかあっても、こんなの現在地なんか分かる訳ないじゃん……」


 軽装の白い鎧を纏い、左の腰に剣の入った鞘を身に付けた装いは、男の冒険者を思わせる。


 ただ、男と言うには少し幼く小さいが。


 小さな彼の名はユベース。


 女神の加護を受けて、生まれ育った強力な力を持つ勇者だ。


「はぁっ、どうしようかなぁ……」


 その勇者ユベースは軽く溜息をつきながら暗い森を歩く。




 ◇  ◇  ◇


「あ~、やっと火がついたぁ。火起こしマジしんどいってぇ!」


 暗い森の中で燃え上がる焚き火の炎。


 達成感と共に1人の小柄な少年が、手に持っていた長い木の杖を手放してから、仰向けの体勢になって余韻に浸る。


 左目は黒い前髪で隠れ、半袖の黒いチュニックと同色で丈の短いキュロットの装いに加え、中性的な容姿は少女にも見えた。


「魔力の調整も大変だな。俺が少し力を入れたら、こんな森すぐに燃えちまうし……」


 こう見えても彼は強大な魔力を持つ魔王。


 正確には魔王となったばかりの魔族の子で、その名はバレン。


 空を見上げながら呟いていると、腹が食事を欲しているのか、音が鳴って自身の耳に届く。


「とりあえず火はついたから、ようやく飯にありつけるけど──」


 上体を起こしたバレンが目を向けた先には、自身よりも大きな人の形をした豚のモンスターが転がっている。


 既に息絶えている状態で、ピクリとも動かない。


「まぁ……腹減ってるし。背に腹は変えられないってヤツか」


 あまり気分の良い物ではないが、空腹を満たす為には贅沢を言ってられなかった。


 食事の準備にバレンが入ろうとした時──



「あれっ?」


「ん?」


 バレン以外の人影が現れると、白い軽装を纏う金髪の少年と目が合う。



 森を彷徨い歩いていたユベースが明かりを見つければ、誰か居るのかと歩く足を早め、そこに黒髪の少年と既に息絶えている魔物の姿が見えた。


「えーと……ひょっとして、それ食べるの?」


「その前にビビらないのかよ。これに対してさ」


 最初の言葉をどう言おうか迷って尋ねるユベースに対して、バレンは魔物を右手の人差し指で差す。


 同年代ぐらいの少年や少女なら、大きな豚のモンスターが倒れていたら悲鳴を上げても不思議ではない。


 ただ、勇者と呼ばれて幼い頃から鍛えられ続けた彼は、恐れるというよりも困ったような表情を見せている。


「そういうのは小さい頃から見てきて、何時の間にか耐性が付いちゃったみたいなんだ」


「どんな幼少期を過ごしてんだよ。滅茶苦茶悲惨な過去をいかにも抱えてそうじゃんか」


 只者じゃないなとバレンがユベースの姿を眺めていた時、焚き火の音に混じって腹の鳴る音が聞こえた。


 犯人は勇者の腹だ。


「お前も腹減ってんなら食う?」


「え、良いの?」


 空腹で食事をどうしようか悩むユベースには、都合の良い魅力的な誘いで、断る理由など無い。


「見た目はともかく、こんなデカいの1人で食い切れねぇし。食べ物を粗末にすんのも駄目だろ」


「まぁ、確かに……ていうかオークって食べられるんだ?」


「食えると思うぜ? 豚のモンスターなら付いてる肉は豚肉で、固くなり過ぎない程度に焼けば確定で美味い。とりあえず手伝え」


「あ、うん」


 突然出会って、この時まだ互いに勇者と魔王という事に気付かないまま、2人はオークを焼いて食事の準備を進める。



 ◇


「──案外美味ぇな」


「うん。普通の豚より肉が柔らかくて美味しい」


「つか、お前が剣を持ってて丁度良いサイズに切ってくれた事がデケぇわ」


 ユベースの持つ剣でオークの肉を焼きやすい大きさに切り、後は焼くのみ。


 パチパチと焚き火の炎が音を奏でながら肉を焼き、食べ頃を迎える頃には、香ばしい匂いが食欲を刺激させる。


 空腹もスパイスとなって、少年2人はオークによる焼肉で美味しく腹を満たしていった。


「しかし、お前のノリは何処か他の奴と違うな。多分普通の人間は、恐ろしいモンスターの肉を食うなんて考えなかったんじゃねぇか?」


「んー……言われてみれば、今まで生きてきてモンスターの肉を扱ってる所は無いし。食べようとしてる人も見た事無いね」


 食事の手を一旦止めたユベースとバレンが、互いの顔を改めて見る。


「──ひょっとして君、魔族?」


「あ? 何でそう思うんだよ」


「いや、何か人とは違う魔力を感じたから」


 女神の加護を受けて、勇者として訓練を積み重ねたユベースには、魔力が感知できる力を持つ。


 持っていれば魔法を使える人間だと分かるが、バレンからは人と異なる強大な魔力を感じさせていた。


「そういうお前も、見た目は小せぇ子供だけど魂が強く光輝いてんぞ。その時点で単なる一般市民じゃねぇだろ」


「小さいって君も似たような身長じゃん」


 互いに背が低いと言い合うが、どちらも150cmに届かないぐらい低く、ドングリの背比べだ。


「ん?」


「あれ?」


 その時、もしかしてと2人は気付く。


 互いが何者なのか。


「まさか君、魔王?」


「そういうお前は、勇者か?」


 指を指し合い、ユベースとバレンは正体を言い当てる。


「……いや、何で分かったし」


「こっちの台詞だから。見た目じゃ分かんないはずなのに」


 互いに反応は薄めながら、自分を知っている事に少なからず驚いている様子。


「つか、そもそも言われて認めんのかよ」


「別に困る事無いし、身分を隠せとかも言われてないからね。君こそ認めちゃって良いの?」


「俺もバレたら、そん時はそん時って感じで。ほら、パッと見は分かんねぇじゃん? お前も勇者だって他から見れば分かりそうにねぇし」


 ユベースは勇者として王国から正式に認められている身なので、特に隠す理由は無い。


 対してバレンも正式に魔王の座を受け継ぎ、その正体を特に隠すつもりは無かった。


「というか僕達、勇者と魔王って事はさ──戦わなきゃ駄目なんだよね?」


「そりゃあ、世界を救う勇者と世界を滅ぼしたり支配する魔王なら……普通は激突するもんだな」


 互いが持つ宿命を考えれば、避けられない対極の立場。


 何時の時代も敵対して、どちらかが滅ぶまで戦わなければならず、そうやっえ歴代の勇者と魔王は争いを続けてきた。


「でも、現状で話してる限りだとなぁ……君からは絶対に世界を滅ぼしてやる! 人間共を滅ぼしてやる! みたいな雰囲気が全然感じられないよ」


「そっちこそ、僕は絶対にこの世界を救うんだ! 皆を守ってみせる! って感じが全く伝わらねぇぞ」


 悪い顔をして叫ぶ勇者と、凛々しい顔で叫ぶ魔王。


 互いに立場を入れ替えて演じる光景は、何も知らない第三者が見ていたら、子供の劇だと微笑ましく見れるかもしれない。


「ねぇ、ひょっとして君さ……」


「俺も多分同じ事を考えてた。そういうお前も──」


 ユベースとバレンは同時に互いを指差して、もう一つの正体を指摘する。




「「転生者?」」


 途中から、何となく分かっていた。


 共に現地で暮らす者とは違う雰囲気があって、話している感じが何処か似ていると。


「あ、やっぱりそうだったんだ!」


「俺だけ来たかと思ったら、お前もそうだったのか!」


 正体が同じ異世界に転生した者と分かった後、立場を忘れて少年達は笑い合う。


「そっち勇者なら絶対に女神とか出てきたろ? 何か圧倒的な物から変則的な物まで、色んなスキルを与えてくれる時にさ!」


「来た来た! でもイメージと違って、何か投げやり気味に仕事してる感じだったよ」


「あー。多分それ、「また転生してきたのかよ。だっる……」て所だな。何かと異世界に転生してくるパターン増えたろ?」


「確かに増えたね。追放ざまぁとか、悪役令嬢とか、おっさんとか、共通して異世界転生あるから女神様は大忙しじゃないかな」


 やっと話の合う者と出会い、2人の口からはライトノベルに関して語られる。


 周囲の全てが元の暮らしていた者と違って、何かと環境や文明が異なって話が合わない事ばかり。


 ユベースやバレンも長年そうして過ごし続けた分、元の世界に居た話題が尽きない。



「──で、ユベースは勇者として使命を果たそうとしてんのか?」


 一通り話しながら2人でオークの肉を平らげた後、バレンは改めて自分に与えられた役目を果たすかを問う。


 もしもそうなら、争わなければならないが──


「ううん。全然」


 勇者の答えはノーだった。


「そもそも僕自身、魔王に何の恨みも無いし。世話になった人の命を奪われてもいない。恨みなんか持ちようが無いじゃん?」


「けど、周りとか勇者の使命を果たせって煩く言われそうじゃねぇの? 特に勇者と認めた国辺りが」


 ユベースを勇者と認めて旅立たせたのは、ウラディート王国という大きな国。


 そこの国王が背中を押して、旅立つ為の資金提供としてもらえたりと、国全体がサポートする。


 無論、勇者として期待をされているからだろう。


「その国が僕を利用するつもりなのが分かったからね。魔王を倒させて、用済みになったら消すって考えてたんだよ」


「あー、はいはい。英雄じゃなくて、魔王を超える脅威って事で都合よく葬るパターンか」


 期待している国の裏側を語るユベースに対して、バレンの方は驚かず、納得したように頷く。


 それを聞いた勇者の心理状態としては──



 自分を勇者として利用して葬ろうとしてる。

 ↓

 分かった今、その国と人類の為に戦う気にはなれない。

 ↓

 このまま使命を無視して自由な旅を楽しんでも、問題無し。



 という風に考えが巡り、ユベースの今に至るという訳だ。


「だから君が魔王でも、僕は討伐する気なんか全然無いよ。むしろやるなら、王様達の方をやってやりたいぐらいだもん」


「思い切り人類の敵間近に迫ってんな。止めねぇけど」


 気の合う転生者を倒すなら、迷わず裏切ろうとしてる国王の方を滅ぼす。


 勇者らしからぬ発言を止めようとする者は、この場に誰もいない。


「そういうバレンこそ、一応勇者な僕と一緒に居て大丈夫なの? 仲間の魔族とか知られたら色々ヤバそうだけど……」


「別に問題無しだから心配ねぇよ」


 魔王の立場で、対極の存在と共に過ごすのは本来なら無いだろう。


 そんな心配もバレンは軽く笑ってから、その理由を話す。



「魔族達に裏切られて追われてる身だから」


「あー、魔族側の裏切りパターンが来ちゃったんだ。さっき食べたオークもその1人って所?」


「そうだな。豚ならぬ鴨が来たと思ったけどよ」


 あっさりと言う魔王に、普通なら驚いたり呆然とする所。


 いずれの反応も見せる事なく、先程のバレンと同じくユベースは納得してる様子だった。


「前の魔王である親父が突然の病死で、古株の部下を中心に団結されて次の魔王になる俺を消し、そいつが新たな魔王になる……取り囲まれた時に聞かされた事だ」


「それはなんていうか、親切だよね。わざわざ企みをペラペラ言ってくれるし」


「さっきの王国といい、情報のセキュリティが異世界はガバガバ過ぎんだよな」


 この世界において、バレンの父親に当たる先代の魔王は病に倒れる。


 そこからタイミングが良すぎるとばかりに、その魔王の部下が裏切って息子を始末しようとした所へ、冥土の土産に聞かされた。


 此処でバレンが考えていた事は──



 親である魔王を殺され、自分も消そうとしてる同族。

 ↓

 最低な裏切り者で同情の余地は無し。

 ↓

 だったら返り討ちにして思い知らせた方が良い。



「とりあえず、向かってきた連中は全部消しといた。生まれ持った魔力だけじゃ、魔法を使いこなせないと思って色々習得したのが実を結んでくれたわ」


「襲いかかる相手に容赦無い所は魔王っぽいよね」


「こっちは殺されかけたんだぞ。魔王じゃなくても、誰だってそうするだろ」


「まぁ、兵士達が裏切り者とか言って斬りかかって来たら、やっちゃうかな」


 襲ってきた同族を葬ったバレンの行いに対して、何も咎めずにユベースは分かると頷いた。


 立場の異なる2人だが、思考は結構近いのかもしれない。


 勇者と魔王による一際変わった交流が続いてる時──




「助けてくれぇぇぇ!!」


 彼らとは異なる人の悲鳴が森に響き渡る。


「今のって……」


「明らかに、おっさんの声だよな」


 ユベースとバレンの耳に届いたのは、中年の男が助けを求めるような大声。


 それが聞こえたかと思えば、1人の人物が転がり込んで来た。


「ひぃっ……ひぃっ……た、助けてくれ! 追われてるんだぁ!」


 此処まで必死で逃げてきたのか、短めの茶髪で口髭を生やした男は息を切らしている。


「こういうのってさ。美少女とか美女が助けを求めるのがお決まりじゃね?」


「そうだけど、来たのはおじさんだよ。どう見ても」


 転生してきた2人からすれば、よくある助けを求めるパターンだなと、緊迫したような状況にも関わらず思っていた。


「き、君達! いいから早く誰か大人を呼んでくれ!」


 中年の男は鬼気迫るような形相で、人を呼んでほしいとお願いする。


 こんな暗闇の森に少年2人だけでは危険だから、大人が居ると思い込んでるらしい。


「あの、おじさん。僕達以外には誰もいないよ?」


「そもそも、俺らもついさっき会ったばっかだしな」


「えっ!?」


 彼らの告げた事実は、残酷だったのかもしれない。


 追手から身を守る為に、強い力を持つ存在を求めていた男にとっては。



「へっへっへ……カモが増えやがったか」


 そこへ追いかけて来た者達が、目の前に次々と現れる。


 軽装の鎧やボロボロな布切れを纏う体格の良い男達が、剣や斧といった武器を持ち、それぞれ薄ら笑いを見せていた。


「こいつらって絶対に盗賊とかだよね?」


「いかにも面が悪くて、格好で物語ってるようなもんだろ」


 武器を構えた人相の悪い男に囲まれ、穏便に済むような気配は感じられない。


「こんな暗い場所で大人も連れずに居るたぁ、悪ガキ共だな。こりゃ大人として保護しなきゃ駄目だろ」


「だよな。他の悪い奴に捕まらず、俺達ファントムシーフに保護されるのは運が良いぜ」


「大人しくついて来ればの話だけどなぁ。ギャハハハ!」


 男達の下品な笑い声が、暗闇に包まれた森で響き渡る。


 こんな場所で都合よく駆けつけて来る人間などいないと、彼らも理解している事だろう。



 最も、少年2人からすれば呼ぶ必要など無いが。


「ご丁寧に自分から盗賊って認めたね」


「俺らを奴隷として捕まえてから、商人に売り飛ばす気満々だろ絶対」


 こういう展開も、元の世界に居た彼らには分かっていて、その先にある結末も読めている。



 おっさんの金品を強奪した後、殺して自分達をさらう。

 ↓

 そうして奴隷で商売する連中へ売って、大金を得ようとする。

 ↓

 明らかな悪い奴で魔物よりもタチが悪そう。

 ↓

 何の問題も無く返り討ちにして良い。



 ユベースとバレンは共に結論付けると、行動に出た。


「ガキ共、大人しくついて来るなら俺達も手荒な真似なんざ──」


 安心させる為、口約束を述べる1人の盗賊が前へ進み出ると、彼の身体から大量の血が流れていく。


「え……?」


 腰の剣を素早く抜き取ると同時に、ユベースは近づいて来た盗賊目掛けて一閃。


 目にも止まらぬ不意討ち。


 斬られた事に遅れて気付くよりも先に、彼の身体は多くの血を流しながら崩れ落ちて、そのまま倒れて絶命していた。


「悪党に先手を譲るほど、僕は優しくないから」


「なっ!? このガキ!」


 いきなり仲間の1人を自分達より小さな少年に斬られ、盗賊達の間に動揺が走る。


 その内の1人が仇討ちをしようと、斧を振り上げながら突っ込む。


「ターンが来ても隙デカいから問題ねぇわ」


 バレンの右手には長い木の杖が握られ、その先端を襲いかかる盗賊へ向ける。


 そこから小さな光り輝く矢のような物が発射して、肉眼では気付かない速さで飛んでいった。


「ギャアァァァ────!!」


 盗賊の全身に雷の衝撃が襲って広がり、絶叫が森に轟く。


 収まった頃には黒焦げの姿となり、前のめりに倒れてピクリとも動かなくなる。


 彼も先程の盗賊と同じように、絶命したのは確実だろう。



「とりあえず、こいつらに捕まったら快適な冒険が出来ないよね」


「こういうタイプは生き延びちまうと、付け狙って来そうだしな。だったら此処で消しちまう方が良いだろ」


 助けを求めていた中年の男は、何の躊躇も無く人を殺めた少年2人を前に、色々な意味で呆然としてしまう。


 勇者と魔王は最適と思って迷わず動き出す……。

此処まで見ていただき、ありがとうございます。


今回が初めての短編となり、好評だったら長編化を考えて、先に少し出してみました。

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― 新着の感想 ―
提案です。 「弟を逃がす為に戦って捕らえられた姉」と「王国の保護という名の監視されてる村で健気に待つ妹」を加えたら面白くなりません♪ 親友同士が家族になる。そんで新しい国を創るなんてのもいいかも(…
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