大したことない依頼を受けたはずの傭兵の人生は変わる
「あんな手練れがいるなんて話は聞いてねえぞくそが」
フリッツは走りながら、依頼主に文句を言う。そして、同時にこんな依頼を受けてしまった自分のうかつさを呪う。
フリッツは傭兵である。貧民街で生まれた彼は、生きるために傭兵として暮らしていた。32歳のフリッツはもう20年以上傭兵として生きている。
フリッツは今日の依頼におかしさを感じてはいた。感じてはいた。だが、ここ最近ろくな依頼がなく、少ない貯金が底をつきかけていた。そこにきたそこそこ報酬がよく、それほど大変そうでもない依頼を見つけた。受けるしかなかったのだ。いつもの警戒心はそこでは発揮されていなかった。おなかが空いていたのだ。
盗賊の根城をほかの傭兵と一緒に攻め込むというものであった。そこを根城にしていた盗賊たちについてはほとんど知らなかった。だが、知らないのはそれほど強いやつがいるというわけではないと思っていた。
ほかに参加する傭兵もほとんど顔馴染みであった。実力も知っていた。だからこそ、安心していたのだ。
なのに、ほかの傭兵はほとんどが殺された。一人異常な奴がいたのだ。フリッツはそいつによって、顔馴染みの傭兵が一瞬で二人殺された瞬間、即座に逃げ出していた。
勝てないとわかったからだ。長年の経験が、彼を救った。後ろの悲鳴を聞かなかったことにしてただ走った。
「逃げきれてもめんどくさいのが最悪だ、だが生きるのが先決だ」
フリッツは依頼を放棄して逃げ出している。明らかに依頼に違反している。だが、死ぬよりもましなのだ。
「クソ依頼人が、顔も見せない時点で怪しいのわかっていたからやめればよかったくそが」
フリッツの愚痴は止まらない。こんなことをなんとか言っているのはフリッツが恐怖心を誤魔化すためだ。それだけ、フリッツはあの男に恐怖していた。傭兵人生で1,2を争う相手であった。
足がもつれず走っているだけでも十分だとフリッツは思う。
なんとか逃げきれるめどがついてきたと思った瞬間、フリッツは絶望する。なぜなら彼の目の前に突然一人の男が現れたからだ。
それはフリッツが逃げ出した元凶の相手であった。赤い髪の男。
「まじかよ、ああクソが」
フリッツは剣を構える。赤い髪の男の右手からは、赤い光が伸びる。彼は剣の柄を持っているだけであった。刀身が魔法によって作られた剣。それが赤い男の武器であった。
「降参するってのは許してくれるか?」
フリッツはダメもとで彼に尋ねる。彼は返事とばかりに斬りかかってくる。フリッツはなんとかその一撃をかわす。剣で受けてはダメだとわかっていた。一度剣が一瞬で切断されてそのまま体が寸断された瞬間を見ていたからだ。
フリッツはかわすことができた自分に拍手をしたい気分であった。なんとかかろうじて目に捉えられたのであった。フリッツは距離をとる。赤い髪の男の追撃を警戒した。だが、赤い髪の男は追撃をしてこなかった。フリッツが疑問を抱いていると、赤い髪の男はフリッツに赤い髪の男が持っているものと同じようなものを投げてくる。
フリッツはそれを警戒し、さらに距離をとる。柄だけの剣が目の前にフリッツの目の前の地面に落ちる。
「拾え、魔法を使えなくても使える。柄を握ればわかる、刀身の出し方がな」
初めて聞く男の声。フリッツは何を言っているんだと思う。だが、今もっている剣では奴に対抗できない。魔法をまともに扱えないのだからフリッツは魔法の剣に対抗するにはやつと同じものを使うしかない。
フリッツは警戒しながら、自分の愛用の剣を捨て、赤い髪の男が落としたものを拾う。フリッツはおそらくこれかと思いながら、柄につけられている小さな四角いものを押す。その瞬間、青い光が柄から伸びる。
フリッツは構える。軽すぎる剣だと思った。まともに扱えないかとも思うが、そんなことを考えるよりも大事なことがある。この剣を使って、目の前の奴を倒すこと。フリッツは自分の弱気な部分を考えず、勝つことのみを考える。
「いくぞ」
赤い髪の男はそう言うといなや、フリッツに一瞬で近づき、剣を振るう。フリッツはそれを自分の剣で防ぐ。不思議な感覚をフリッツは感じる。実体のない剣のはずなのに、重みを感じるかのような感覚。フリッツはなんとかそのまま、彼と打ち合う。だが、数合でフリッツは負けを確信した。
(強すぎるだろ、こいつ。かろうじてしか見えねえなんて初めてだ)
自分の腕前を過大評価したつもりもおごったことは一度だってないフリッツは初めて自分の腕前では何もできないとわかってしまう。そして、決着は一瞬であった。フリッツののど元寸前に赤い光が迫る。
フリッツが死んだと思った瞬間、そこで光は止まる。
「合格だ」
赤い髪の男がその言葉をつぶやくと同時に、赤い光が消える。フリッツが困惑していると赤い髪の男は続ける。
「お前なら、陛下の役に立てる」
「陛下?」
「リフェリア陛下だ。トランヴィア王国の国王。俺はトランヴィア王国の騎士、ジル」
フリッツはわけがわからなかった。トランヴィア王国は隣国の国であった。その騎士がなぜこんなところにいるのかがわからない。ジルは続ける。
「お前はその剣を持った瞬間に、だいぶ使いこなせていた。素質は十分だ、行くぞ」
「待ってくれ、わけがわからん」
「傭兵から王家直属の騎士になれる。名誉だろう、それに給料も高い。もし家族か恋人でもいるなら一緒に連れていけるが」
ジルはそれで十分だろうとでも言いたげな態度であった。フリッツは困惑の渦中にいる。だが、フリッツは彼についていくしかないと思った。大体、ここで断ったら殺されると思ったからだ。フリッツは今後どうなるかはわからないが、ジルについていくことを選択するのであった。何とかなると思いながら。
「俺はフリッツだ。家族も恋人もいない独り身の傭兵だ」
「フリッツ、これからよろしくな」
ジルは手を差し出す。フリッツはその手を握るのであった。その時、フリッツの人生は大きく変化するのであった・・・




