口に含んだ果実は酸っぱくて
初恋を自覚したのはある日の放課後のことだった。
ーー中学2年の秋。
部活が終わり、たまたま同じタイミングで下校することになった友達と並んで歩いていた。
彼女は真美。
陸上部に所属するクラスの中心人物だ。
誰にでも距離が近い子で人懐っこく、憎めない性格。
美術部で運動が苦手な私にとって、太陽のように明るい彼女は憧れの対象でもあった。
その時の空気感は、なんというか少し張り詰めていて彼女の様子に違和感を覚えていた。
いつもの明るさがないような……?
たわいもない会話と少しの沈黙が続いた後、意を決したように彼女は私に問いかけた。
「ねぇねぇ、梓ってさ、もしかして彰くんのこと好きだったりする?」
「ちょいちょい彰くんのことみてるなーって思っててさ」
彰くんは、私達と同じクラスの男の子。
部活はバスケ部に所属している。
背が高くてすごくかっこよくて、スポーツも勉強もバリバリできる、そんなオールマイティな人だ。
探るような眼差しが印象的だった。
できれば違っていて欲しいと、そう訴えかけてくるような強い視線。
何故だろう…… 彼女のその目が、すごく怖い。
そんな彼女の視線から逃れるように、気づけば私は口を開いていた。
「え?違う違う!彰くんの顔面が美しすぎてついみちゃうだけだよ」
「だからそういうのじゃないって。しいて言うなら芸能人を拝むみたいな?」
そう言うと、彼女の眼差しから険しさが消えた。
その様子に安堵するとともに、私の心臓は締め付けられる。
……心が痛い?
その痛みについて深く考える前に、彼女にぎゅっと腕を抱きしめられた。
どこか安心した様子の彼女。
よかった、いつも通りだ。
「わかる〜、彰くんかっこいいもんね。でも、そっか...よかった〜」
彼女はほっと息をつくと、足を止めた。
身体が引っ張られ、自然と私も足を止める。
……嫌な予感がする。その先の言葉を私は聞きたくない。
だけど、私の心情などお構いなしに彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「あのね、実は私、彰くんのこと好きなの...」
そう告げる彼女は同性の私から見てもとても可愛らしいものだった。
あぁ…かなわないなぁ。
そう思うと同時に自分の気持ちに気付かされた。
だけど、感傷に浸る間もなく彼女は続ける。
「だからね、お願い!彰くんと付き合えるように協力してくれない?」
断れるはずもなかった。
期待に満ちた彼女の瞳が、まっすぐに私を見つめている。
その時、この気持ちは表に出しちゃいけない、一生隠さなければいけないと悟った。
胸を刺すような痛みをグッと押し殺して、私は無理やり笑顔を作る。
「うん、もちろん!協力するよ」
そうして私は彼女の勇気に嘘をついた。
ーーこれが私の初恋の始まりと終わり。
2人が仲睦まじくしている姿を想像する。
あの瞳に映る相手が、私ならよかったのに。




