生者と死者の手紙
こちらは、Xのユーザー企画にて参加した作品です。
お題「主人公は生者と死者の手紙を届ける郵便屋。ある日、自分の名前が書かれた手紙を見つける。そこにはある人物の名前が」
冷たい星空の中、紳士用のステッキに横乗りで空を飛ぶ。
このステッキとは長い付き合いだな、と思う。
パチンと指を鳴らすと、電飾が光る民家の郵便受けに手紙が滑り込んでいった。
前職で多少有名な舞台俳優をしていたせいで、私が空を飛ぶと、気づいた住人が手を振ってくる。
ファンサービスはしない主義なので、手は振り返さない。
そのまま空を飛んで、月の中にある職場へ到着した。
ステッキを壁に掛け、帽子とコートをコートハンガーに引っ掛ける。
「先輩、配達お疲れ様です」
茶髪の軽そうな雰囲気の後輩、レオが届いた手紙の仕分けをしていた。
「今日は多いですね。手伝いますよ」
パラパラと空から色とりどりの手紙が降ってくる。
手紙が溜まったカゴをレオのいる机に移し、分別していく。
「助かりますー、マジで今日多いですから」
一枚一枚確認していくと、とある手紙を見つけた。
またですか。
私宛の可愛らしい手紙を見ながら、そっと懐に仕舞い込む。
「私の熱心なファンからのファンレターですね」
「先輩、人気者でしたもんね」
この仕事は冥界と現世を繋ぐ月の中で、届いた手紙を回収し、配達する仕事だ。
もちろん私たちが境界を跨ぐことはできないが、手紙だけは届く。
「あ、これも先輩宛ですよ」
「それはいりません」
レオから手紙を受け取り、ゴミ箱へと落とした。
「あらら。先輩、その人に返事は出さないんですか?」
レオは、先ほど胸にしまった手紙を指差した。
「まだ、彼女にはこちらに来て欲しくはありませんからね」
差出人メリッサ。
私の婚約者だった、現世の住人だ。
また懲りもせず、私に手紙を出し続けている。
私を忘れずに――。
「手紙を出したぐらいで後追いしますかねー?」
「どうでしょう。少なくとも、泣かせてしまいますよ」
視線を落とし、そっと胸に手を当てた。
「先輩、その笑顔怖いですよ……。まぁ、ここにいないと思わせる作戦としてはアリですね」
ここにゴミ箱が存在しているのは、冥界にいない人物に手紙が来ていた場合の処分先だからだ。
「これは私と彼女の、戦いのようなものです」
メリッサは強い人のように見えて、弱かった。
私の贈り物一つとっても、大事にしまい込んで離さなかった。
そんな彼女に手紙を送ってしまえば……彼女の家にまた一つ、処分不可能な置き物が増えてしまうだけだろう。
「彼女はあの手この手で、私に手紙を出させようとしてきますから」
「まー、先輩ファンサしないですもんね」
「ふふ、まぁそうですね」
私が彼女に手紙を出してしまえば、この可愛らしい手紙が読めなくなる。
私を求め、縋る、愛おしい気持ちを綴った手紙が。
――親愛なるユリウス様へ
何度目の手紙かしらね。
全部取ってあるのでしょう?
私を甘く見ないことね。あなたが私に手紙を送るまで何度でも書き続けるんだから。
鬱陶しいでしょ? 早く手紙を出せばいいものを。
あなた、昔から私にしか興味なかったくせに。死んだ途端に興味を失くしたのかしら。
私が毎日泣いているの、わかってるくせに。
寂しいのよ。いつまで待てばいいの?
……なんて、私が言うと思った?
別に一人でもやっていけるわ。
次はもう少し、扇情的に書いてみようかしら。
楽しいなんて思ってないのよ。暇つぶしなんだから。
あなたからの返事が欲しいメリッサより
……毎度、ユリウスがメリッサからの手紙を読んで静かに崩れ去っているのは、彼の名誉のために黙っておこう。
彼の本棚には今日もメリッサからの手紙が並んでいく。
溢れてしまう前には返事を出そうかと思っているユリウスだが、もはやどんな文面で返事をすればいいか見当もつかないのであった。
お読みいただきありがとうございます。
二、三回お読みいただくと、だんだんこの男が可哀想な悲壮感漂う男から、自業自得の慇懃無礼ブーメランを受けているめんどくさい男に変化する可能性がございます。
ご注意ください。




