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第13話:神の代償

砂漠全体が一度、

大きく息を吐いたかのように沈黙した。


砂虫の黒い波は、

跡形もなく消え去っていた。


残ったのは、

潰れた体液の黒い染みと、

水面に浮かぶ無数の破片だけ。


だが、その静けさは、

あまりにも長く、重かった。


ルミナは、

機械神の肩にへばりつくように座り込んだまま、

呆然と下界を見下ろしていた。


「……終わった……?

 私たち助かったの?」


声が震える。


自分のものとは思えないほど、か細い。


パフの球体の中で、

金色の瞳がゆっくりと瞬く。


「終わった……のではない。

 始まったのだ。」


その言葉が終わるより先に、

異変が起きた。


ナギの右耳から、

ぽたり、と一滴の血が落ちた。


同時に――

機械神の耳孔から、ずるりと音を立てて、

アークの機械腕が抜け落ちた。


最初は、

ただの滴だった。


だが、次の瞬間――


耳孔から、

赤黒い筋が一気に流れ落ちる。


「ナギ……!?」


それを見た瞬間、

ルミナは叫び声と同時に駆け寄っていた。


少年の身体がぐらりと傾く。

ルミナは反射的にその胸へ腕を回し、

倒れ込む前に彼を抱きとめた。


耳の奥から、

熱いものが溢れ出している。


視界が歪み


巨神の俯瞰視界と、

自分の視界が、

「引き裂かれる」ような感覚が襲った。


ナギは、

唇を噛みしめて耐えようとしたが、

口の端からも血が滲み出した。


「……まだ……

 終わって……ない……」


「もう、終わったのよ。大丈夫」


その言葉を、

ルミナが聞いた瞬間――


ルミナは反射的に、

両腕で彼の頭をぎゅっと抱え込んだ。


まるで壊れものを守るように、

自分の胸元へ引き寄せる。


そして――

頬と頬が触れ合うほど近く、

ナギの頭を抱きしめた。


「大丈夫……大丈夫だから……」

震える声で繰り返しながら、

ルミナは必死にその頭を支え続けた。


彼の鼻腔の奥から、

熱いものが一気に噴き出した。


「――!?」


鼻血だった。


最初は、

片方の鼻孔から。


だが、次の呼吸で、

両方から同時に赤い糸が垂れ落ちる。


ルミナは慌てて手で押さえたが、

指の間から血が溢れ、

顎を伝い、

白い衣装を汚していく。


「な……

 何……これ……どうしたらいいの」


ナギはルミナの腕から滑り落ちるようにその場に崩れ落ち

機械神の肩の装甲に額を打ちつけるように倒れ込んだ。


その瞬間――


機械神の巨体がゆっくりと沈み、

膝が砂漠へ沈む。


金属の膝が地面に触れた瞬間、

砂が低く唸り、波紋のように広がった。


巨神は、

主を失った獣のように、

静かに、深く、頭を垂れた。


血が、頰を伝って、


ぽたり、

ぽたりと、


巨神の錆びついた金属に落ちるたび、

小さな赤い染みが、ゆっくりと広がっていった。


まるで、最後の血の一滴まで巨神に吸い取られるように。


パフの声が、

球体の中でかすかに響く。


「……代償だよ。

 アークに選ばれた者であっても、

 その力を使いすぎれば――

 反動は必ず、自分に返ってくる。


神の視界を借りるというのは、

 本来の境界を削ってまで“届かせる”行為なんだ。


……そして、共鳴した者は、

 その痛みを分け合うことになる。」

 

 ルミナは震える手でナギの肩を支え、

そっと自分の膝の上へ頭を乗せた。



冷えきった機械神の甲板から、

ルミナはそっとナギの頭を持ち上げた。


自分の膝で受け止め、

そのまま胸元へ優しく抱き寄せる。


「……こんな力、もう使っちゃ駄目……」

声が震え、喉の奥でつまる。


「二度と……こんな無茶、させないから……」


血で濡れたナギの髪を、

必死に撫でながら言葉を絞り出す。


「あなたが……いなくなったら……私……」


そこから先は、声にならなかった。


砂漠の夜が、再び静かに降りてきた。


星々が、冷たい光を降り注ぐ中、

巨神の肩に寄り添う二つの小さな影。


冷えきった金属の上で、

体温を奪われていく少年の身体を、

少女は震える腕で必死に抱き寄せていた。


まるで、

その小さな温もりが消えてしまわないように。

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