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第12話:動き出した機械神

 共鳴は、さらに強くなった。

 機械神の耳孔が、低く、うなり声のように震える。


 ナギの身体は、

 見えない力に引かれるように、その耳元へと運ばれていった。


 抗うことはできない。

 アークの腕が、まるで呼び戻されるかのように、

 機械神の内部へと引き寄せられていく。


「……っ」


 次の瞬間――


 少年の神経が、冷たい機械の配線と直結し、視界が――広がった。


 ひとつだった世界に、巨大な視界が重なり、

 そのまま頭の奥へと流れ込んでくる。


 高い位置から見下ろす砂漠。

 その上を、砂虫の群れが黒い塊となって蠢いている。


 その“俯瞰の視界”が、

 ナギ自身の視界と、無理やり重ね合わされた。


「……す、すごい……!」


 まぶたを閉じても、消えない。

 むしろ、閉じた闇の内側で、景色はさらに鮮明になる。


 二つの身体が、

 一つの感覚へと溶け合っていく。


 世界は二重に歪み、

 やがて――

 どちらが“本当の視界”なのか、判別できなくなった。


 ナギの意識は、

 抗う間もなく、その巨体の内部へと吸い込まれるように溶けていった。


 そして――


 振り上がる、巨大な腕。

 頭上で五本の指が、空を裂くように大きく開かれた。


 そのまま、

 砂虫が群がる地面へ――

 叩き落とされる。


 轟音。

 大地が震え、砂が爆ぜた。


 潰れた砂虫の体液が黒く広がり、

 水辺の縁へと、じわり、じわりと染み込んでいく。


 少年は確信した。


「動かせる」


 ルミナは息を呑んだ。

 パフは、震える声で呟いた。


「……アーク神に選ばれた者は、神の遺物を扱う資格を持つ。

 ……神話は、本当だった」


 その言葉は、祈りとも、畏怖ともつかない響きで、

 水面へと溶けていった。


 そして――


 少年は、静かに、しかし確かに命じた。


「巨神よ――立ち上がれ」


 静寂が、世界を覆う。


 次の瞬間、

 水に沈んでいた巨体が、

 水底そのものを揺るがすように、動き出した。


 水面が大きく盛り上がり、

 波が幾重にも重なって押し寄せる。

 砂と水が渦を巻き、

 その中心から――


 巨神が、這い上がる。


 関節の奥で、古い金属がきしみ、

 うめくような低い音が響いた。


 肩から零れ落ちる砂は滝のように流れ、

 錆びついた胸部装甲が、夕陽を受けて赤く、鈍く光った。


 長い眠りの中で閉ざされていた“目”が、

 ゆっくり、ゆっくりと開かれていく。


 巨神は、数世紀に及ぶ沈黙から覚めたかのように、

 世界の重さを確かめるように――立ち上がった。


 その姿は、

 まるで神話が現実へと滲み出した瞬間そのものだった。


 機械神が立ち上がった瞬間、

 世界の空気が変わる。


 それまで少年と少女の小さな旅だったものが、

 一息で――神話の再演へと姿を変える。


 巨神の影が砂漠を覆い、

 砂虫たちが一斉にざわめく。

 恐怖ではない。

 本能だ。

 捕食者の前に立つ獲物の本能。


 機械神の足が、

 ゆっくりと空へ引き抜かれる。


 足裏の巨大な影が、

 逃げ惑う砂虫たちの背を覆い隠した。


 そして――

 踏み下ろされた。


 大地が深く沈み、衝撃波が円を描いて奔り、

 砂虫の群れは、黒い破片となって四方へ吹き飛んだ。


 ただ、質量が世界を叩く鈍い響きだけが、

 夕陽の砂漠に長く残った。


 跳ね上がった砂虫を、

 巨神の腕が横薙ぎに払う。


 砂の中へ逃げ込もうとする砂虫を、

 巨神の足が容赦なく押しつぶす。


 それは、一方的な蹂躙だった。


 ナギの視界には、

 巨神の視界が重なっている。

 砂虫の動きが、

 逃げ道が、

 すべて“見える”。


 巨神の腕が動くたび、

 ナギの心臓が脈打つ。

 ナギの意志が動くたび、

 巨神の四肢が応える。


 二つの存在が、一つの意志で蹂躙する。


 踏みつけ、

 払い、

 叩きつけ、

 押し潰し、

 砂虫の群れは次々と砂へ沈んでいく。


 頭部の影からその光景を見つめ、

 ルミナは震える声で呟いた。


「……これが……機械神……」


 夕陽が沈む。

 その光の中で、

 巨神はなおも動き続ける。


 砂漠に広がっていた黒い影は、

 やがて――

 一匹残らず消えた。


 そして、

 静寂が戻った砂漠の中心に、

 ただ一体の巨神が立っていた。


 その足元に、

 少年と少女の旅の名残はもうなかった。


 あったのは――

 神話の始まりだけだった。

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