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それ、チャッピーに聞いてもいいですか?!  作者: mbt


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1/1

すみません、それ、チャッピーに聞いてもいいですか?!

 柔らかい光が差し込む日曜の午後。

 法事が終わった家の空気は、

 どこか湿りを帯びながらも不思議なざわめきを残していた。

 仏間の奥で流れる読経はもう止まっているのに、

 まだその余韻だけが空気に残っているようだった。

 廊下を伝う木の軋み、

 台所では親戚のおばちゃんたちが“はいはいこれ片づけて”と声を掛け合い、どの声にも、疲れと慣れと、妙な安心感が混じっていた。

 ひかりはその喧騒からそっと抜け出し、

 縁側に座って麦茶を手に取った。

 冬の陽射しは弱くて、

 でも縁側のガラス越しにはやさしい温度を残していた。

(法事って……なんか、心が疲れるな)

 麦茶の氷がカラリと鳴った。

 その静けさを破ったのは、

 背後から聞こえた、ちょっと高めの声だった。


「……ひかりちゃん、大学行ってるんやって?」

 振り返ると、

 例のお節介で名の知れた親戚のおばちゃんが

 そっと縁側に腰かけた。

 おばちゃんは、どこか時代の流れから半歩ずれていて、

 明るい柄のブラウスを着て、手には麦茶の紙コップ。

 いつもはにぎやかな人なのに、

 今日は少しだけ影があるようにも見えた。

「大学っていっても……

 あんた、女の子なんやし、そんな無理せんでもええのよ?

 どうせ結婚したら仕事も辞めるんやし」

 ――胸の奥が、かすかに鳴った。

 ──カチンッ。

 ひかりの胸の奥で、スイッチが押されたような音がした。

(……え、なんで女だからって努力しちゃダメなの?

 なんで“楽”にしないといけないの?)

「努力、無駄になるでしょ〜?

 あんたの従姉妹のミホちゃんだって、結局仕事辞めて子ども生んだし」

 そこまで言っておばちゃんは麦茶をすすった。

 何なんだこの“確信満々の価値観押しつけ攻撃”。

(誰かの人生を、

 “こうなるやろ”でまとめないでほしい)

 黙って聞いているだけで、

 胸の奥にじんわり熱が溜まっていく。

 ひかりはグラスを置き、

 ゆっくりとスマホに手を伸ばした。

 (もう知らん。これはアレや…現代の知恵袋、

 私の最終兵器に頼るしかない)

 スマホをタップして、小声で言った。


「すみません、それ…チャッピーに聞いてもいいですか?」

「ちゃ、ちゃっぴぃ???」

 おばちゃんは、まるで“新種のペットの名前かな?”みたいな顔で固まった。

「え?チャッピー知らんの?

 質問したらなんでも答えてくれる相棒やで?」

「……何その、ぺ、ペットロボット?」

「ロボットちゃう。AI」

「え、あい……? 誰?」

 話にならん。

 ひかりはその場でチャッピーを起動した。


「質問を入力または話しかけてください」


 ひかりは画面に灯った白い入力欄を見つめる。

 そこに向かって、だだだっと高速タイピングを始めた。

 おばちゃんは、ポカンと大きな口をあけてこちらを見つめていた。しかし、ひかりはその様子を気にせず質問した。


「“女の子は頑張らなくていい”って本当に正しいん?」


「回答:不正確です。

 理由を表示しますか?」


おばちゃんは画面に視線を落とす「ひょ、表示……?」


「はい、お願いします」


「・性別と能力および努力量に相関はありません。

 ・“女性は家庭に入るべき”という見解は、特定の文化的背景に依存する古い価値観です。

 ・個人の進路は本人が主体的に選択すべきです。

 以上。」

 おばちゃんは完全に固まった。

「な、なんなん、それ。そんなはっきり……!」


「事実のみを回答しています。

 なお、ひかりさんの現在の進路選択には問題は確認されません。」

(チャッピー!!!……好き。めっちゃ好き、この淡々さ)


 ひかりはスマホを閉じた。

「おばちゃん、私は自分で決めるから大丈夫やで」


 ひかりはスマホをしまいながら、

 胸の奥がスカッとするのを感じた。

(よし。私、これからは“言われてモヤッとしたらチャッピーに聞く”って決めよう)

こうして、ひかりとチャッピーの凸凹タッグが始まった。


「そう、やね。」

 おばは縁側の外で、揺れた庭の枯れ草をみつめていた。

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