プロローグ
四月、桜の花びらが、校門の風に乗って舞い散っていた。
「おっ、紗奈、また袖が余ってる」
背後から声をかけてきたのは、幼馴染の辻堂美羽だった。
振り返ると、彼女のスカートの裾がふわりと揺れる。
「……別にいいでしょ。成長期だもん」
とツンとした態度で接する彼女は、桜井紗奈。
美羽の幼馴染で、今年この中高一貫校に入学してきた。
美羽はくすりと笑い、軽く紗奈の頭を撫でた。
「背、伸びるといいね」
「なっ……もう! 撫でるなってば!」
美羽が手を引っ込める気配はない。
むしろ、もう片方の手でがっちりと紗奈の腕を掴んで、今度はくしゃくしゃに撫でてくる。
「ほらー、動くなって」
「う、動くに決まってるでしょっ!」
逃げようとする紗奈。頬を赤くして抗議する姿が可愛くて、美羽は思わず笑ってしまった。
「……な、なに笑ってんのよ」
「紗奈、やっぱり可愛いなって思って」
その言葉に、紗奈の動きが止まった。
それと同時に、紗奈の顔も赤く染まっていた。
桜の花びらが、二人の間をひらひらと通り過ぎていく。
――放課後、二人は昇降口で再び出会った
紗奈が美羽に気がついた瞬間、すでに紗奈のほうは赤く染まっていた
そう、彼女は、今朝のことで完全に美羽に惚れてしまっているのだ
紗奈「あの……一緒に帰りませんか……先輩」
美羽「全然いいけど……急にどうしたの?」
紗奈「あの……その……先輩と……一緒に帰りたいな……って」
更に顔が赤くなる紗奈
――その後
昇降口を出ると、夕陽が差し込み、桜がオレンジ色に染まっていた。
二人の影が、長く並んで伸びる。
美羽「なんか、久しぶりだね。こうやって一緒に帰るの」
紗奈「……うん。小学生のとき以来、かな」
一瞬の沈黙。
風が吹いて、紗奈の髪がふわりと舞う。
美羽はそれを見て、少し笑った。
「やっぱり、紗奈ってかわいいな」
「ま、またそれ……!」
紗奈はぷいっと顔を背ける。けれどその横顔は、どこか嬉しそうだった。
紗奈は気づいてしまった。
辻堂美羽という存在が、自分の中でどんどん大きくなっていくことに。




