第10話:構想の種
数日間、オレは頭の中で何かが形を作り始めているのを感じていた。
まだ輪郭はぼやけているが、確かにそこにある。
それは「零号機」の成功や課題、仲間たちの笑顔や悔しさが混ざり合って生まれた、小さな火種のようなものだった。
夜のカフェで、中原、美咲、北条、三谷、島崎と他愛ない話をしていた時のことだ。
「次はさ、もっと物語が深いやつやりたい」
美咲がカップを回しながらそう言った。
「オレはバトルシステムを凝ったやつにしてみたいな」
北条が笑うと、三谷がすかさず「お前の凝り方はいつも重すぎる」とツッコむ。
そのやり取りを聞きながら、オレはぼんやりと頭の中に映像を描き始めていた。
廃墟の街、遠くにそびえる塔、そこへ向かう人物の後ろ姿。
それが誰なのか、何を求めているのかはまだ分からない。
ただ、その景色がやけに鮮明で、心を掴んで離さなかった。
(コウくん、その映像を覚えておくべきです)
ポケットのアバロスが、淡々と告げる。
(……映像?)
「ええ。コウくんが今、心で見ている景色は、やがて形を持ちます」
その言葉に、思わず口元が緩んだ。
店を出て夜風を受けながら、オレは考えていた。
今はまだ断片に過ぎない。
でも、この断片が繋がった時、きっと誰かの心を動かせる作品になる――そんな予感があった。
次の一歩を踏み出すには、時間も労力もかかるだろう。
けれど、あの展示会で得た手応えと、この胸の高鳴りがあれば、きっと行ける。
その夜、オレは久しぶりにスケッチブックを開き、思いつくままにメモを走らせた。