第九十六章 初めての直接的脅威
夜のアパートは静まり返っていた。
街灯が微かに通りを照らし、窓ガラスに映る二人の影を長く伸ばす。
由紀はソファに座り、リボンを握った手を膝の上に置きながら、外の気配に神経を研ぎ澄ませていた。
「奈々、今日は警戒を怠らない。光にいるとはいえ、影は近い」
奈々は小さく頷き、布団を抱きしめるようにしてソファに座った。
「わかってる……でも、怖い……」
***
アパートの外、暗闇に紛れる黒い影が再び動いた。
仮面の人物は低く唸り、壁際に身を隠しながら二人の行動を観察する。
地下室から逃れた二人を再び掌握するため、計画は慎重かつ冷酷に進められていた。
「光に逃げられた……だが、ここからが本番だ」
彼は窓の位置、通りの明暗、夜風の向きを計算し、忍び寄る最適なタイミングを見極めていた。
影は静かに、しかし確実に二人に迫る。
***
その瞬間、アパートの玄関先で微かに音がした。
鍵の隙間をかすめるようなわずかな手の気配。
由紀はすぐに立ち上がり、リボンを握る手を強く握った。
「誰だ……!」
奈々も背後で小さく震えながら、由紀にしがみつく。
「ユキ……来た……?」
ドアの外には誰もいない。しかし、微かな足音、風に紛れた冷たい気配が、仮面の人物の接近を示していた。
由紀は息を殺し、奈々に囁く。
「落ち着いて……今はまだ安全。だけど、影は確かに近い」
***
仮面の人物は通りの暗がりに身を潜め、窓越しに室内の様子を確認していた。
「次は……油断できない……確実に接触する」
低く唸る声が夜の空気に混ざる。
彼の視線は二人の姿を逃さず、心理的圧力を与えることを計算していた。
奈々は震える手をリボンに絡め、由紀に問いかける。
「ユキ……あの人、入ってこないよね……?」
由紀は微かに首を振り、リボンを握り返す。
「まだ光の中にいる限り大丈夫。でも、準備はしておこう。影は確実に近づいている」
***
夜が更けるにつれ、仮面の人物の影は徐々にアパートに接近していった。
窓の外の闇に紛れ、風に乗る音も微かに計算され、二人の心理を揺さぶる。
その存在はまだ直接的に触れてはいないが、影の気配だけで十分に恐怖を与える。
由紀は奈々の肩に手を置き、静かに囁く。
「怖いけど、光がある。私たちはここにいる限り負けない」
奈々は小さく頷き、リボンを握る手に力を入れる。
「うん……一緒なら……」
外の暗闇に潜む仮面の人物。
室内で手を握り合う二人。
光と影、安心と不安が交錯する中、初めての直接的な脅威が二人の生活に忍び寄る。
夜風に混ざる微かな足音。
窓ガラスの向こうに見え隠れする黒い影。
それは二人にとって、未知の戦いの序章に過ぎなかった。




