第八十九章 脱出への第一歩
地下室の奥、静寂が広がる中で、由紀は奈々の手をしっかり握った。
微かに残る影の気配を背に、二人は床に散らばる錆びた道具や鎖を避けながら、進路を探す。
「ここ……どこまで続いているの?」
奈々の声はまだ震えていたが、由紀の手に握られたリボンの光を見て、少し安心した様子だった。
由紀は微かに頷き、低く囁く。
「出口は必ずある。リボンの光がそれを示している」
足元の影は、まだ完全に消えたわけではない。
壁の隙間や天井の陰でうねるように蠢き、仮面の人物の意思が潜む気配を感じさせる。
「まだ、あいつらがいる……」
由紀の胸を恐怖が締めつけた。
***
病室の被害者もまた、幻視の中で二人の行動を追っていた。
鉄格子の奥で、由紀と奈々が進む姿が見える。
影は揺らぎ、仮面の人物の気配もまだ完全に消えてはいない。
「二人は……逃げられるのか……?」
心の奥で、被害者は問いかける。
しかし、奈々のリボンが光るたびに、影の輪郭がかすんでいく。
「行け……行くんだ……」
その光は、まるで奈々自身が自らの意志で未来を切り開くかのように、道を示していた。
***
由紀は深呼吸をして、奥へ一歩踏み出す。
足元には錆びた鎖や古い木箱が散乱している。
踏み外せば、怪我をする可能性もある。
だが、後ろを振り返ることはできなかった。
奈々の目が、全てを託して見つめていたからだ。
「ユキ……行こう」
奈々は小さく頷き、由紀にしっかり手を握り返す。
通路は狭く、壁には鉄の鎖が垂れ下がり、行く手を阻む。
由紀はリボンの光を壁に押し当てながら、慎重に進む。
その光に導かれるように、二人は闇の中を進んでいく。
影の気配が再び現れる。
黒く蠢き、二人の足元を囲むように迫る。
「……まだ、ここにいる……」
由紀は心の奥で呟き、奈々の手をさらに強く握った。
***
仮面の人物の気配もまた、地下室の奥から迫る。
低く、かすれた声が響く。
「逃がすな……絶対に……」
だが、由紀と奈々は恐れなかった。
リボンの光が二人の手に宿り、希望を示していたからだ。
「もうすぐ……出口が見えるはず……」
由紀は奈々に囁き、視線を前に向けた。
闇の中、奥に淡い光が差し込む。
出口は近い――確信が胸に宿る。
奈々も、恐怖に震えながらも足を進めた。
***
その時、地下室全体が微かに揺れ、壁の奥から低い唸り声が響く。
影は最後の抵抗を示すかのように蠢き、仮面の人物の気配が再び現れる。
しかし、二人の意思は揺るがない。
光が闇を切り裂き、希望の道を二人に示していた。
由紀は奈々の手を強く握り、声を張る。
「行くぞ、奈々! 絶対に生きて外に出るんだ!」
奈々は目を見開き、震えながらも頷いた。
「うん……行く……」
地下室の奥、光の向こうに二人の未来が待っていた。




