表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『見えない鎖』  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/173

第八十章 扉の向こう



 扉がわずかに開いた瞬間、被害者の視界は眩しい光に包まれた。

 夢の中のはずなのに、光はあまりにも生々しく、まるで現実の太陽が差し込んでいるかのようだった。


 「まぶしい……」

 思わず目を細めた。


 やがて、薄暗い空間の輪郭が浮かび上がる。

 そこは狭い部屋だった。壁はコンクリートむき出しで、床には乾いた血のような茶色い染みが点々と広がっている。

 部屋の中央には、錆びついた椅子。

 そこに、小柄な少女の影が膝を抱えて座っていた。


 「……奈々?」


 呼びかける声が震える。

 少女は顔を上げた。

 だが、その顔は曖昧に揺らめき、はっきりとは見えなかった。

 夢の記憶だからなのか、それとも意識が拒んでいるのか。


 「助けて……」

 奈々と思しき影は、か細い声で囁いた。


 ***


 同じ時刻。

 現実の世界で、刑事・由紀は廃工場の扉を押し開けていた。

 強烈な錆の匂いと、湿った空気が一気に流れ出す。

 懐中電灯の光が部屋を切り裂くと、そこには夢と同じ光景――椅子と、壁に残る無数の爪痕が現れた。


 だが、椅子には誰も座っていなかった。

 ただ、床に擦り切れた縄と、少女のものと思われる白いリボンが落ちていた。


 由紀は震える指でそれを拾い上げた。

 「……奈々……確かにここに……」


 胸の奥に強烈な共鳴が走る。

 その瞬間、由紀の脳裏に他人の記憶が流れ込むような感覚があった。

 ――暗い部屋。

 ――泣き叫ぶ少女。

 ――誰かが近づき、冷たい手で口を塞ぐ。


 「やめて!」

 思わず叫び、懐中電灯を落とした。


 床に転がった光が椅子を照らす。

 そこに一瞬だけ、人影が浮かび上がったように見えた。


 ***


 夢の中の被害者は、少女に近づこうとしていた。

 だが足が動かない。

 まるで床に根が張り付いたように、前に進めなかった。


 そのとき、少女の影が顔を上げ、こちらをじっと見つめた。

 「どうして……助けてくれなかったの?」


 被害者の胸を鋭い刃物のような言葉が突き刺した。

 「違う……私は……!」


 叫ぼうとしたが、声が出ない。

 その代わりに、少女の背後の闇から長い影が伸び、椅子ごと少女を包み込んでいった。


 「やめろ!」

 被害者は必死に足を動かす。

 だが、伸ばした手は届かず、少女の姿は闇に呑み込まれていった。


 最後に残ったのは、白いリボンだけだった。


 ***


 現実。

 由紀は拾い上げたリボンを胸に抱え、震える声で呟いた。

 「これは……彼女が残した“鍵”かもしれない……」


 だが、背後で小さな物音がした。

 振り返ると、誰もいない。

 しかし確かに気配がある。

 闇の奥から、何者かがこちらを見ている。


 由紀の耳に声が響いた。

 「どうして……助けてくれなかったの?」


 それは夢の中で被害者が聞いたのと同じ、奈々の声だった。


 由紀の心臓が大きく跳ね上がる。

 夢と現実が完全に重なったのだ。


 「奈々……あなたはまだ、この場所に縛られているの?」


 返事はない。

 ただ、風に揺れたリボンがひとりでに宙を舞い、扉の奥――さらに深い闇へと導くように落ちていった。


 由紀は拳を握りしめ、震える足を一歩前に進めた。

 「必ず……あなたを見つけ出す」


 その言葉と同時に、夢の中の被害者もまた同じように闇へと足を踏み入れていた。


 こうして二人は、異なる世界でありながら、同じ運命の道を歩み始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ