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『見えない鎖』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第七十章 迫る影



 夜。

 私は、自室のベッドに腰を下ろしていた。

 窓の外では雨が細かく降りしきり、街灯の光を滲ませている。

 その揺らめきが、なぜか胸騒ぎを掻き立てた。


 最近、妙な視線を感じることが増えていた。

 スーパーの帰り道、角を曲がるたびに背後で足音が響く。

 振り返っても誰もいない。

 エレベーターに乗れば、階を間違えたふりをする見知らぬ男が同乗している。

 気のせいにしたいのに、身体は正直だ。

 心臓は早鐘のように打ち、手のひらには冷たい汗がにじむ。


 ――監視されている。


 その直感を、頭では否定できなかった。


 警察に話すべきか。

 だが、証拠もなく「誰かに見張られている」と言ったところで、まともに取り合ってもらえるだろうか。

 刑事の北条さんなら信じてくれるかもしれない。

 けれど、その分、彼女に迷惑をかけるのではないか……そんなためらいもあった。


 私は深呼吸を繰り返しながら、頭の奥にざらついた記憶を探った。


 ――奈々。


 その名前が浮かぶたび、胸の奥が強く締めつけられる。

 彼女は笑っていた。

 私と同じ制服を着て、放課後の教室で楽しそうに話していた。

 でも、ある日を境に、突然姿を消した。

 「転校した」と説明されたけれど、誰も転校先を知らなかった。

 先生たちは口を濁し、同級生も次第に話題にしなくなった。


 だけど、私は知っている。

 奈々は――消された。


 その確信だけが、私の中に重く残っている。

 思い出すたび、背筋に冷たいものが走る。

 そして同時に、あの男の顔がぼんやり浮かぶのだ。

 スーツに身を包み、冷たく笑っていた大人の男。


 ――社長。


 彼の存在が、奈々の記憶と結びついている。

 それ以上を思い出そうとすると、頭が痛み、視界がぐらつく。


 突然、窓の外で物音がした。

 ドキリと胸が跳ねる。

 私は息を潜め、そっとカーテンをわずかに開いた。


 街灯の下、男の影が立っていた。

 傘も差さず、ただこちらを見上げている。

 顔は暗くてわからない。

 けれど、その視線の冷たさだけは、はっきりと伝わった。


 私は慌ててカーテンを閉じ、震える指でスマートフォンを掴んだ。

 北条さんに電話を――そう思ったが、発信ボタンを押す前にためらう。

 もしこれが思い過ごしだったら?

 もし「気のせいですね」と言われてしまったら?


 その一瞬の躊躇が、命取りになるかもしれないのに。


 ドアの向こうで、エレベーターの音がした。

 上ってくる。

 私の階まで。


 心臓が喉までせり上がり、呼吸が乱れる。

 逃げ道は――ない。

 部屋の中に閉じ込められた私は、まるで獲物を待つ小動物のようだった。


 そして思った。

 奈々もきっと、こんな恐怖を味わったのだ。

 助けを呼びたくても、声が届かず。

 逃げ道を探しても、扉の向こうに影が立っていたのだ。


 私は震える唇を噛み締め、スマートフォンを強く握った。

 もう迷っている場合じゃない。


 ――生き残るために。


 私は震える指で北条の番号を押し、呼び出し音を待った。

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