第七章 窓のない時間
地下室に朝も夜もなかった。
時間の流れは、上の世界にいる社長の足音と、テレビから絶えず流れ続けるアダルト映像の明暗によってしか測れない。時計もカレンダーもない空間で、私はいつからここにいるのか、自分でも時折わからなくなる。
鉄の檻に囲まれ、裸同然の姿で過ごすことに、羞恥はとうに麻痺してしまった。最初の数年は、泣き叫び、恥ずかしさに身を縮め、どうにか逃げ出そうと必死だった。だが、時間は残酷に人を慣れさせる。檻の錆びた匂いも、透明なポータブルトイレの不快感も、週一度の冷たいシャワーも――今では、すべて「生活の一部」になっていた。
とはいえ、心の奥底で完全に屈服したわけではない。
私はまだ夢を見ることができる。
檻の外にあるだろう、太陽の光。
温かい風、街のざわめき、人々の笑い声。
それらを思い浮かべるだけで、胸の奥にかすかな熱が灯るのだ。
けれど、同時に恐怖もある。
十二歳でここに連れてこられ、気づけば二十四歳になってしまった。青春と呼ばれる時期を、すべて檻の中で費やした。
もしも今、この檻から解き放たれたとして、私は外の世界で生きていけるのだろうか。
まともに学校に通ったこともない。友達もいない。社会を知らない。
「自由」という言葉は、時に残酷な刃のように思える。
社長は、私に対して妙な優しさを見せることがある。
髪を切ってくれる時、シャワーで身体を洗ってくれる時、その手つきは確かに乱暴ではない。
だが、それは愛情ではないことを私は知っている。
社長の目は、私を「人」としてではなく、所有物として見ている。
ペットに餌をやり、手入れをするように。そこに温もりはあっても、対等な関係は存在しない。
最近、社長の態度が変わってきたことに気づいていた。
私を見る目に、かつての執着や熱はない。
ただ、面倒を見なければならない厄介者に向けるような視線。
――飽きられた。
その事実を自覚したとき、背筋が凍った。
「飽きた所有物」に対して、この男はどう振る舞うのだろう。
壊れた道具を修理するのか、それとも廃棄するのか。
考えるだけで、胸が締め付けられる。
私は檻の中で小さくうずくまり、かすかに震える。
それでも、心の奥底には一筋の光があった。
私はまだ「外」を知らない。
だが、だからこそ外への憧れは強い。
自由な空気を吸いたい。青い空を見上げたい。名前を呼ばれ、誰かと笑い合いたい。
そんな願いが、心を支えていた。
夜、テレビの光がぼんやりと檻の鉄格子を照らす。
私は目を閉じて、その映像から目を背けるように耳を塞いだ。
――聞こえた気がしたのだ。
遠く、どこかで、誰かが私を呼ぶ声。
それは幻聴かもしれない。
けれど私はその声にしがみついた。
誰かが私を探している。誰かが、まだ私を必要としている。
「私は、まだ生きている」
胸の中で小さくつぶやき、冷たい床に身体を横たえた。
眠りに落ちる直前、私はもう一度だけ心に誓った。
――必ず、この檻の外に出る。