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『見えない鎖』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第六十四章 影を追う



 「長い髪の女……ですか」

 病院の個室で被害者の証言を聞いたあと、私は同僚の高梨と並んで廊下を歩いていた。

 半信半疑だった。だが彼女の目の強さは、曖昧な幻覚ではなく、確かな記憶を物語っていた。


 高梨が声を潜めて言う。

 「……犯行現場で目撃された情報と符合する部分があります。近隣の住民が、“夜中に長い髪の女性を見た”と証言していたんです。ただ、特徴がぼやけてて」

 「見間違いの可能性もあるな」

 「ええ。ただ、被害者の証言と合わせると……無視できません」


 私は足を止め、窓の外を見やった。夜の病院は静かで、遠くに街の灯が瞬いている。

 長い髪の女――彼女は犯人側の人間なのか、それとも囚われの身でありながら被害者を助けようとしていたのか。


 被害者はこう語った。

 「彼女は、怯えていた。だから……あの人も支配されていたんじゃないかって」


 その言葉が頭から離れない。

 もしそうなら、この事件の構図は大きく変わる。単なる監禁犯と被害者の関係に、もうひとつ別の鎖が存在している可能性。


 署に戻ると、捜査本部は騒然としていた。新しい情報が入ったらしい。

 「課長、これを」

 部下が差し出したのは、近隣の防犯カメラの解析結果だった。

 深夜、郊外のコンビニ駐車場を歩く女性の映像。長い黒髪、細身、顔はマスクで隠れている。

 被害者の証言と一致している。


 「時刻は……午前二時四十五分。監禁場所の推定範囲から車で十五分圏内です」

 高梨が声を上げる。

 「……これは偶然とは思えませんね」


 私は映像を何度も繰り返し再生した。

 そこに映る女は、迷いなく歩いていた。怯えているようにも、何かに追われているようにも見えた。

 ただ一つ確かなのは――この女が、事件の核心に繋がっているということだ。


 「高梨。周辺の聞き込みを徹底しろ。コンビニ店員から詳しい証言を取る。女が何を買ったのか、レシートも確認だ」

 「了解です」


 私は椅子に腰を下ろし、深呼吸をした。

 事件は、また新たな相を見せ始めている。

 “見えない鎖”は、まだ誰かを繋ぎ止めているのだ。

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