表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『見えない鎖』  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/173

第五十四章 決着の刻



 焼けるような痛みが腕を走っていた。

 鎖をまともに受けたせいで、骨が軋み、指先の感覚も薄れている。

 それでも私は倒れなかった。倒れてしまえば、あの少女を再び檻に戻すことになる。


 「……お前には渡さん!」

 影が吠える。

 顔は血走り、狂気に染まっていた。

 長年、自分だけの世界に閉じ込めてきた獲物を奪われる恐怖と怒り。

 その感情が、彼を常軌を逸した怪物に変えていた。


 私は深く息を吸い込み、体勢を整える。

 左腕はもう役に立たない。だが右手にはまだ力が残っている。

 腰に下げた拳銃に手を伸ばしかけ、しかし躊躇した。


 ――撃っていいのか?

 確かに正当防衛だ。だが、ここで発砲すれば少女の心に残る傷は計り知れない。

 銃声が、彼女に「再び世界は恐ろしいものだ」と思わせるかもしれない。


 迷いの刹那、影が再び鎖を振り上げて迫った。

 私は咄嗟に身を翻し、肩口に衝撃を受ける。鈍い痛みが全身に響き、視界が揺れる。


 「クソッ……!」

 歯を食いしばり、私は床を蹴った。

 影との距離を一気に詰め、全身の力を込めて体当たりする。

 互いに転げ落ち、鉄の床に激しく叩きつけられた。


 至近距離で見た影の目は、理性を失った獣そのものだった。

 「俺のものだ……誰にも渡さん!」

 その執念に、ぞっとするほどの寒気が走った。


 だが、私は負けられない。

 必死に腕を伸ばし、鎖を握る影の手首を掴む。

 激しい力比べ。骨と骨が軋む音が耳の奥で響く。


 「……終わりにしろ!」

 私は叫び、残された右腕の力で鎖をねじり奪い取った。

 影の目が一瞬、驚きに見開かれる。

 その隙に、私は鎖を逆手に握り、彼の体を床に縫い止めた。


 影が呻き声を上げ、暴れようとする。だが、もう力はない。

 全身の筋肉が悲鳴を上げ、私の視界も霞んでいく。

 それでも、ただひとつの思いが私を支えていた。


 ――少女を救う。

 そのために、ここまで来たのだ。


 影の動きが次第に鈍り、やがて完全に止まった。

 重い沈黙が地下室を満たす。

 私は荒い息を吐きながらも、銃に手をかけることなく鎖を握り続けた。


 ふと振り返ると、少女が入り口で立ちすくんでいた。

 怯えた瞳が、私と影の姿を交互に見つめている。


 「……もう、大丈夫だ」

 声を絞り出すと、彼女の頬に涙が伝った。


 私はゆっくりと鎖を手放し、全身の力を抜いた。

 勝利の感覚はなかった。ただ、終わったのだという実感だけが重く胸にのしかかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ