第五十三章 外の空気
格子の扉が軋む音を立てて開いたとき、私は一瞬、夢を見ているのだと思った。
十年以上――暗い檻の中で過ごし、外の世界に触れることなどなかった。
だからこそ、扉の隙間から漏れる冷たい風に触れただけで、胸の奥が震えた。
「……でら、す……」
声が掠れてうまく出ない。
でも刑事さんは、そんな私に大きく頷いて手を差し伸べてくれた。
その掌の温かさに触れた瞬間、足の震えが堰を切ったように強くなった。
――出られる。
この檻から、やっと。
けれども、一歩を踏み出そうとしたその瞬間、背後から耳をつんざく音が響いた。
鎖が鉄を打ち、火花を散らす。
「逃がさん……! その檻はお前の居場所だ!」
影の叫び声に、心臓が再び掴まれたように縮み上がる。
私は刑事さんの背にすがりついた。
恐怖で、涙で、視界が滲む。
でも――檻の外の空気は確かに胸に入り込んでいた。
埃っぽくて、湿っていて、それでもどこか懐かしい匂い。檻の中では絶対に嗅げなかった匂いだ。
「大丈夫だ、前を向け」
刑事さんの声は荒い息に混じりながらも、まっすぐで力強かった。
その言葉に背を押され、私はようやく格子を越える。
足元がふらつき、崩れ落ちそうになる私を、彼は強く支えてくれた。
だが次の瞬間、視界の端に銀の閃きが走った。
影が鎖を振り上げ、こちらを狙っていた。
私は反射的に目を閉じる。
――もう終わりだ。
けれども、衝撃は来なかった。
代わりに響いたのは、刑事さんの苦痛の呻き声。
開いた目に映ったのは、鎖を腕で受け止めた彼の姿。血が滲み、赤く染まっていく。
「逃げろ……!」
彼の声は震えていたが、それ以上に必死だった。
私は首を振った。
逃げる? どこへ? ここはどこなのかさえ分からないのに。
――でも。
檻を出た今、このまま立ち止まれば再び閉じ込められる。
それだけは絶対に嫌だった。
私は震える足で、一歩を踏み出した。
影の視線が、私を射抜くように追ってくる。
背筋に冷たいものが走ったが、それでも止まらなかった。
外の空気が、私を呼んでいた。
胸いっぱいに吸い込みながら、私は必死に走り出した。




