第五十二章 鍵と影
「くそっ、どこに鍵がある!」
檻の前で叫んだのは俺だった。
格子の向こうでは、少女が膝を抱えて震えている。目は涙で濡れ、助けを乞う声が喉の奥から漏れていた。
だが鍵がなければ、救い出すことはできない。
背後では、相棒が鎖を振るう影とぶつかっていた。
「時間を稼ぐ! お前は檻を開けろ!」
息を切らしながらも、彼は鎖の一撃をかわし続けていた。
火花が散るたび、地下室の空気は一層重苦しくなっていく。
――落ち着け。必ず鍵はある。
この部屋のどこかに。
俺は壁際の棚を探った。乱雑に置かれた工具、錆びついた金属片。だが、どれも鍵ではない。
そのとき、ふと目に入った。
机の引き出しの奥に、異様な装飾の施された小箱があった。
開けると、中には古びた銀色の鍵。
ただの鍵ではない。その柄の部分には、奇妙な刻印が彫られていた。
――見覚えがある。
以前、古い事件記録で見たことのある紋様だ。十数年前、歌舞伎町で失踪した少女たちの遺留品に記されていた紋様と同じ。
「やっぱり……あの一連の事件と繋がっているのか」
口の中で呟いた瞬間、背筋が凍った。
振り返ると、影がこちらを見て笑っていた。
『その鍵は……私の証だ。選ばれし者だけが手にすることを許された証』
「証だと……?」
鎖が唸りを上げ、相棒をかすめる。血が飛び散った。
「早く開けろ!」相棒の声が響く。
俺は震える手で鍵を掴み、檻の錠前に差し込む。
錆びついていたはずの鍵穴は、不気味なほど滑らかに回った。
カチリ――。
その音は、まるで長い眠りから目覚める合図のように響いた。
格子がわずかに揺れた瞬間、影の声が再び降り注ぐ。
『開けるがいい。その檻は、ただの牢ではない……真実を映す鏡だ』
意味を測りかねる言葉。
だが今は考えている暇はない。
檻の扉を押し開けると、少女の大きな瞳がこちらを見上げた。
震える手が伸ばされる。
「大丈夫だ、必ず守る」
俺はその手を掴んだ。
次の瞬間、背後で鎖が唸りを上げた――。




