第四十九章 影の正体
――光だ。
闇に覆われた広間に、まぶしい光が差し込んだ。
懐中電灯の白い光が、私の頬を照らす。
その瞬間、私はようやく夢ではないと確信した。
「おい! 大丈夫か!」
声が響く。
低く力強い声。必死にこちらへ駆け寄ろうとする二人の男の姿。
刑事だ――助けに来てくれたのだ。
胸が震え、涙が溢れる。
もう終わりだと思っていた。
この鎖に絡め取られ、誰にも見つけてもらえず、ただ消えていくのだと……。
「助けて……! ここにいるの……!」
私は腕を伸ばす。必死に声を張り上げた。
だが――。
その背後で、重い鉄の軋む音がした。
鎖が床を這うように持ち上がり、台座の上で揺れた。
そして黒い布をまとった存在が、ゆっくりと姿を現す。
影――。
これまで私を監視し、笑い、泣き声を楽しむかのように付きまとってきたもの。
実体があるのか、幻なのかすらわからなかった存在。
だが、今は確かに見える。
痩せた体躯。黒い布の奥から覗く、ぎらつく眼。
その眼は、人間のものに違いないのに、底のない暗闇を孕んでいた。
「……来るな」
私は声を震わせた。
影は私の足首を締める鎖を引き、ずるずると引き寄せようとする。
痛みで足が裂けるように熱くなり、悲鳴が喉を突いた。
「やめろ!」
刑事のひとりが叫び、鎖の隙間に体を滑り込ませる。
もうひとりも拳銃を構えた。
希望が、ほんの一瞬、胸に広がる。
――助かるかもしれない。
だが影は、不気味な低い声で笑った。
耳ではなく、頭の奥に直接響くような声。
『見えない鎖から逃れられると思うのか』
鎖が一斉に揺れ、壁に吊るされた鉄が音を立てて鳴り響く。
その響きはまるで、広間全体が生きているかのようだった。
私は必死に腕を伸ばし、刑事たちへ向かって叫んだ。
「お願い……ここから出して! 早く!」
その声に応えるように、刑事のひとりが駆け寄る。
だが次の瞬間、影が右腕を振ると同時に、鎖が生き物のように跳ね上がり、刑事の身体を弾き飛ばした。
「ぐっ!」
鈍い衝撃音。刑事が壁に叩きつけられる。
希望は一瞬で絶望に変わり、再び胸を締め付けた。
――やっぱり逃げられないのか。
影の笑い声が広間を満たしていく中で、私はか細い祈りを心に繰り返していた。




