第三十一章 微かな光
ドン――という轟音が、地鳴りのように床を震わせた。
私はびくりと身を縮め、檻の中で耳を澄ませた。
――何? 何が起きてるの?
今までにない音だった。重たい扉が破られるような音。続いて、複数の足音、怒号。
胸が早鐘のように鳴った。
もしかして……警察? 本当に? ずっと夢に見てきた「助け」が、いま、この瞬間に――?
けれど、同時に。
地下室の扉がギィ、と音を立てて開いた。
暗闇の向こうから現れたのは、あの男――篠崎。
顔に浮かべたのは、いつもの優雅な笑みではなかった。ひどく歪んでいて、何かを決意したような、恐ろしい影を孕んだ笑みだった。
「……来たか。ようやく来たか」
低く呟く声が、鉄格子の間をすり抜けて私の鼓膜を打つ。
私は後ずさった。背中が檻の柵にぶつかり、逃げ場はない。
「や……やめて……」声は震えていた。
篠崎はゆっくりと近づいてきた。
「静かにしなさい。うるさくすれば、彼らがここに辿り着く前に……」
彼の手には何かが握られている。銀色の鈍い光。――ナイフ。
足がすくむ。息ができない。
ようやく訪れた救いの瞬間が、同時に最悪の終わりをもたらそうとしていた。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
――この人は、私を殺そうとしている。証拠を消すために。
私は震える声で叫んだ。
「助けて! 誰か――!」
その声に呼応するように、地下室の天井の向こうから男たちの声が響いた。
「こちらだ! 下に何かあるぞ!」
篠崎の目が、ギラリと光った。
「黙れ!」
ナイフを持つ手が振り上げられる。
私は必死に後ずさりながら、檻の隅に追い込まれた。
――まだ死にたくない。
――まだ、終わらせたくない。
その瞬間、私は生き残るために、檻の中で何かを掴もうと手を伸ばした。
錆びた鉄のボウル、水の入ったコップ……何でもいい。武器になりそうなものを。
頭上では、重たい足音が近づいてくる。
そして、鉄の扉の向こうから、強烈な打撃音が響いた。
私は全身を震わせながら、ただその「光」が届くのを待ち続けた。




