第二十六章 突入準備
雨が降りしきる夜だった。
名古屋地検から正式に令状が下りたとの連絡を受けた瞬間、私の全身に戦慄が走った。
――ようやく、ここまで来た。
「篠崎貿易本社社長・篠崎義久。未成年者略取および監禁容疑」
長い調査と証拠固めの末、検察も動かざるを得ない状況になったのだ。
だが、ここからが本当の勝負だった。
篠崎邸は名古屋市郊外の高級住宅地にあり、周囲は高い塀と監視カメラに囲まれている。内部には私設警備員も出入りしており、一流企業の社長邸というよりも、まるで要塞だった。
強制捜査に踏み込むとしても、一瞬の遅れが致命的になる。証拠の破壊、被害者の生命の危険……すべてが時間との戦いだ。
「相沢、作戦会議室へ」
上司に呼ばれ、私は足早に署内の会議室へ向かった。そこでは特殊犯捜査係の面々が集まり、地図と映像を前にしていた。
「対象は二階建ての洋館風建物。地下に大規模なスペースがある可能性が高い」
「防犯カメラは確認できるだけで十数台。正面突破は困難」
「鍵は電子式と物理式の二重ロック。制圧班が同時に突破する」
緊張した空気の中で、私は質問を投げかけた。
「被害者が地下に監禁されているとしたら、突入時に危険にさらされる可能性は?」
「高い。だからこそ迅速な制圧が必要だ」
机の上に置かれた資料の中には、篠崎が裏社会の半グレと接点を持っていたことを示す証言も添えられていた。もし彼らが突入情報を事前に察知すれば、最悪のシナリオが待っている。
私は拳を握りしめた。
――もう時間がない。
「突入は明日の未明。篠崎が外出予定を終えて帰宅し、就寝した直後を狙う。制圧班は正面と裏口から同時侵入。相沢、お前は地下を最優先に確保しろ」
上司の言葉に、私は深く頷いた。
被害者が生きているのか、それともすでに……その答えはまだわからない。
けれど、この一手で決めるしかない。
会議室を出ると、窓の外には激しい雨が叩きつけていた。
「……待っていてください。必ず、必ず助け出します」
小さく呟いたその言葉は、誰にも届かない。
ただ、胸の奥に宿る熱だけが、私を突き動かしていた。




