第二十四章 繋がる線
名古屋署の会議室に、緊張が張りつめていた。
机の上には、失踪届の写しが三枚並んでいる。最新の日付のものは、昨日受理されたばかりの「十二歳少女失踪事件」だ。保護者が深夜になっても帰らないことを不審に思い、警察に通報した。
「またか……」
相沢は眉をひそめる。
その少女の特徴――年齢、髪型、そして家出の可能性。どれも過去に扱った行方不明者と酷似していた。
だが、過去の案件は捜査が進展しないまま時間が経過し、資料の山に埋もれていった。失踪者はただの「家出」と処理され、社会から忘れられる。
しかし、相沢の頭からは一度たりとも消えていなかった。
「これ以上、同じことを繰り返させてはならない」
地図を広げ、失踪の発生場所を赤いピンで示す。
すると、不自然な偏りが浮かび上がった。
どの少女も、篠崎重工の本社ビル、あるいは社長邸の周囲半径二キロ圏内で忽然と姿を消していたのだ。
「……やはり篠崎か」
だが、証拠は乏しい。篠崎は財界で絶大な影響力を持ち、警察内部にすら支援者がいる。下手に動けば、揉み消されるどころか、逆に圧力で捜査が潰されかねない。
相沢は、捜査一課長に進言することを決めた。
「課長、パターンが一致しています。少女たちはみな、篠崎邸の周辺で消えている。彼の邸宅を捜索すべきです」
課長は苦い顔をした。
「お前の勘は認めるが、証拠がない。篠崎のような大物を動かすには裁判所の令状が必要だ。上が納得する材料はあるのか?」
「……まだです」
相沢は悔しさを噛み殺した。
しかし、その瞬間、別の刑事が駆け込んできた。
「相沢さん、例の防犯カメラ解析できました!」
差し出されたタブレットには、商店街のカメラ映像が映っていた。
そこには、失踪した少女が半グレ風の若い男に付き添われる姿が記録されていた。
そしてその男が乗り込んだ黒塗りの高級車――篠崎が所有する車とナンバーが一致していた。
「……来たな」
相沢の心臓が高鳴った。
これは単なる偶然ではない。状況証拠が、一本の太い線で篠崎へと繋がった瞬間だった。
「課長、これで十分でしょう。今動かねば、あの子も過去の少女たちと同じ道を辿ります」
相沢の声には迷いがなかった。
課長は長い沈黙の後、低く答えた。
「……わかった。令状請求の準備をしろ。失踪者の生命に危険が及んでいる可能性が高いと記載する。相沢、現場指揮は任せるぞ」
「はい!」
相沢の目に、決意の炎が宿った。
――もう一人たりとも犠牲にしない。
篠崎邸の重い扉をこじ開け、檻の中の真実を暴き出す。その時が近づいていた。




