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第5話 消える白さ
夜勤明けの帰り道、自転車を押しながら、家の灯りをぼんやり思い浮かべていた。
娘はもうほとんど会話をしてくれなくなったけれど、それでも誰かが待っている家があるだけ、まだマシだと思っていた。
登り坂がきつい。足は鉛のように重い。
街の片隅、車通りの少ない道。
誰にも気にされないこの道が、私の人生みたいだと思う。
ふと、遠くからライトが近づいてくる。
その光に、反射的に目を細めた。
次の瞬間、耳元で金属音が跳ねた。
何が起きたのか、よくわからなかった。
体が宙に浮いて、地面に叩きつけられた。
自転車と一緒に側溝に転がり落ちる。
誰の声も聞こえない。
助けてほしいとも思わなかった。
ただ、見上げた空には、街灯の蛍光灯が一つ、どこまでも白く、何も照らさずに灯っていた。
寒さも痛みも遠ざかっていく。
自分が消えていく気配だけが、静かに、世界から切り離されていく。
誰にも見つからないまま、私は、蛍光灯の白さの下で、静かに消えた。