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1話

純粋ファンタジーのつもりです。

なので、枷もなく好き勝手に書きました。

 ものごころついたときは、すでにぼくはそこにいた。

 そこはうすぐらくて、しめっていて、かびくさい。

 つめたくて、いきぐるしい、いしのかべにかこまれた、けっしてひろいとはいえないへやだ。

 そんなへやのなかで、ぼくはぼろきれをみにまとって、ひざをかかえてふるえている。とうぜん、くつなんてものはない。

 だんをとるもうふもないし、ひのさすまども、れんがでうまっている。

 てつのこうしでとじこめられ、そのすきまからみえる、つうろをはさんでむこうがわにもおなじようなへやがある。

 たぶん、かべのりょうどなりもおなじへや。

 へやにはおとなからじぶんみたいなこどもまで、ようしもねんれいもばらばらな、ぜんいんがおとこのにんげんがつめこまれていた。

 たいようのみえないへやだから、じかんのながれはわからないけど、いっていのじかんがたつと、ぶきとよろいでぶそうしたへいしたちがへやからでるようにぼくたちをつれだす。

 そとにでると、よろいのにんげんはなんじゅうにんといて、ぼくたちをみはっている。

 そこはどこかのやまのなか。いわがむきだし、はいいろのくもがながれるそら。へやのなかとはちがうさむさ。

 ぼくたちにあたえられためいれいは、いしやもくざいをはこぶこと。それはなにかの、たてもののざいりょうになるらしかった。

 ひにひにくみあがるたてものが、おおきくなっていくのがわかる。

 それが、だれのためのたてものかなんて、かんがえるよゆうもなかった。

 あめのひも、かぜのひも、あらしのひもこごえるようなかぜのふくひも、やすむことをゆるされず、ひたすらにざいりょうをはこんでいた。

 うごくのがおそいと、ようしゃなくむちでたたかれる。たいりょくのないおじいさんは、めをそむけたくなるくらいにたたかれていた。やめてくれとしわがれたこえでこうぎしていても、おかまいなし。そのうち、おじいさんはうごかなくなった。

 ぼくも、やめてくれとおもっていた。でも、こえにだしていえなかった。

 いったら、そのほこさきをじぶんにむけられてしまうとおもったから。

 おなじかんがえをもつひとはほかにもいたようで、ちらちらとみながらも、じふんのしごとにうちこむしかなかった。

 それよりも、ほんとうにこわいのは、おなじくへやにおしこめられているおとこたちだった。

 きにくわないことがあれば、ぼくにだってぼうりょくをふるう。

 てで、あしで。いしだたみはいつもだれかのちでよごれていた。

 しょくじはいちにちにいっかいのみ。

 けしてやわらかいとはいえないパンと、かすかにあじがするかしないかわからないまっしろいスープのみ。

 ときには、えらぶっているおとこが、べつのおとこのごはんをうばう。おれはからだがでかいからはらがへるんだ、と。ぼくもなんどもとられた。

 でも、しばらくするとそのおとこはよろいのへいしにつれられて、にどともどっとくることはなかった。

 なんにちか。

 なんじゅうにちか。 

 なんびゃくにちか。

 なんぜんかいか。

 どれだけそんなせいかつをつづけていたか、わからない。おわるとおもってすらいなかった。いつか、ちからつきるまでこのままかとおもっていた。

 でも、しぬのはこわかった。

 だから、ぼうりょくをうけても、なにもいわずにていこうせず、ただひたすらにたえしのんだ。

 そんなせいかつは、あるひとつぜんおわりをつげた。

 みはりとはちがう、よろいをきたへいしがあらわれた。

 みはりはなはにかをいいながらけんをふるうが、あらたにあらわれたよろいのぬいたけんできりふせられる。みはりはなにもいわなくなった。

 つぎつぎと。しょくじをはこんできたへいしも。

 そとからひめいがきこえてくる。

「大丈夫か!?」

 けんをさやにおさめながら、そのおとこはいった。

 このちかろうに、おなじよろいをまとったにんげんたちがあらわれる。

 こうしがあけられるも、なかにいたおとこたちはおどろき、とまどうばかりだった。

 それは、どれいだったひびがおわって、あたらしいぼくのじんせいがはじまったしゅんかんだった。


「困ったな・・・」

 カシム・ロワは、眼鏡をずらしつつ、目元を指で揉む。

 国政が問題で山積しているのは時代の常ではある。そして、目の前にある最後の問題は、ある意味一番大きな壁だ。

「捕らえられた奴隷の内、大人はともかく、身元が判明した子供はひとりを除いて全て親元に帰された訳だが・・・」

 机の上の書類に視線を落とし、カシムは溜息を吐く。書類には幼い少年の写真が添付されている。

「話を聞いてみたら、どうやら親は父母ともに居ねえらしい。覚えていないといったほうが正確かもな」

 カシムと対峙しているのは、白銀の鎧を身に纏った精悍な顔付きの騎士だ。

 セイン・ルイファート。若くして騎士長の地位に就く男だ。

 ある邪教団が神殿を創るために世界各国から連れ去られたのは、居なくなっても困らない犯罪者、そして年端のいかない子供たち。完成に年単位の時間が掛かることを見越してなのか、力のある大人だけではなく、未来のある子供が多かったのが印象的だ。

「このまま城で囲っておく訳にもいかねぇだろ。あいつには自分の未来がある」

 失われた時間は返ってこない。だが、それで未来を生きる資格が無くなった訳ではない。

「いっその事、ここで育てたらどうだ。騎士団にとっても未来を担う逸材になるのではないか?」

 問題の少年を保護したのはセインの部隊だった。子供にも関わらず、常軌を逸したみすぼらしい衣服と、とても清潔とは言えない独房。助けに現れた騎士の一団にも、希望の光がその瞳に宿っていないのが、セインは胸が痛かった。

 長い間理不尽に従属させられ、救いの望みが打ち砕かれたからなのか、少年の瞳はすぐに輝きを取り戻すことはなかった。

 名案とばかりにカシムは頷くが、それに対してセインは表情を曇らせる。

「ただでさえ地獄のような生活を続けきたのに、さらに地獄を味あわせるのか。もっとも残酷な提案だぜ」

 騎士の修行は、民を守るために肉体だけでなく、精神をも鍛え上げる。人を人と扱われない生活をしてきた少年が、その痩せ細った身体で耐えぬけるものとは思えない。

 今はまだ、身体だけでなく心を休ませる時間が必要だ。

「・・・すまん」

 カシムは眼鏡を指で押し上げながら、小さく言葉を吐く。

 重苦しい室内とは逆に、窓の外は快晴。鳥のさえずりが聞こえる。

「・・・街の外れに教会があるだろう」

 思い出したようにカシムが口を開く。

 カシムの言う通り、この街の外に近く、小高い丘に教会が建っている。清浄神イース・ルールを崇める神とする、寂れた教会だ。

 今現在はかつて務めていた高齢の神父が亡くなり、代わりに訪れたシスターがその教会を守っている。街の住人に老若男女に慕われる、慈悲深く若い女性だ。

「そこのシスター様なら、その少年の引き取り手になって頂けるのではないか?」

 彼には親どころか、手がかりを辿って親族を探すことも叶わない。

 この世に唯ひとりの肉親もいない、天涯孤独の身。孤児を受け入れる施設に行くにしても、どんな選択肢を取るにしても、この城でいつまでも囲っておく訳にはいかない。それは、あの少年の身にはならない。

 教会には、シスターがひとり住み込みで働いている。子どもひとりを置くぐらいの空き部屋はあるだろう。

「それでいいな」

 カシムは書類にペンを走らせる。

「彼には幸せになってほしいものだ」

 その考えに関しては、セインも同じ思いだ。

 不幸になる人間など、この世にひとりもいない方がいいのだから。

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