04-火を守る者達
日が傾き始めると、村のあちこちから煙が立ち上る。
調理の準備か、それとも寒さをしのぐためか。
いずれにせよ、村は火に包まれたように静かにざわめいていた。
ユマは、焚き火の輪の近くに座り込み、ひとつの炎をじっと見つめていた。
薪は組まれている。火も立っている。
でも、その煙の量と、くすぶるような燃え方に、彼は少しだけ首をかしげた。
「……燃えてるには燃えてるけど。
もったいないな。これ、風の通り道、塞がってんだよな」
火を扱うことに関して、村人たちは間違っているわけではない。
火を絶やさず保つ工夫もしている。
それでも、現代人の視点から見ると、あと一歩が惜しい。
ユマは立ち上がると、近くの子どもたちの視線を感じながら、そばの地面に小さな焚き火の模型を組みはじめた。
石を数個、円形に並べ、細い枝を数本、風の流れを計算して井桁状に配置する。
燃料は、今くすぶっている焚き火から拾った乾いた薪の切れ端。
火種もその焚き火から分けてもらう形で、燃えている炭のかけらを慎重に移した。
「こうやって、空気が通る隙間を作ってやる。
煙が抜けやすくなるし、火もまっすぐ立ち上がる」
もちろん、言葉は通じない。
だが、その小さな焚き火にふっと炎が上がり、煙が空へとすっと昇っていった瞬間──
周囲にいた子どもたちの目が見開かれた。
「……ッ!」
「ホ……ヨ……カ……?」
低く、かすれた声が背後から漏れた。
振り返ると、白髪混じりの老人が立っていた。
黒ずんだ衣、煤けた顔。
火守──村の火を絶やさず見守る、そんな存在なのだろう。
彼はユマの火をじっと見つめながら、なにかを指差し、断片的な言葉を口にする。
意味は分からないが、その目は真剣で、どこか驚きを含んでいた。
ユマはその視線を受け止めながら、言葉ではなく、手元の火を見せるようにして言った。
「……炎を怒らせるんじゃなくて、喜ばせる。
いや、そんな考え方自体ないか……でも、伝わるか?」
老人は何も言わず、焚き火にそっと手をかざした。
そのぬくもりを感じたのか、ほんの少しだけ頷いたように見えた。
言葉は通じない。
でも、炎が語るのなら、少しは伝えられるかもしれない。
そんな確信にも似た予感が、ユマの中に芽生えていた。
ふと視線を上げると、少し離れた場所にアヤの姿があった。
彼女は焚き火を見つめながら、何かを考えているような顔をしていた。
近づいてくることもなく、ただじっと──ユマと火のやり取りを見守っている。
やがて、彼女はそっと焚き火のそばに歩み寄り、手をかざす。
そして、ほとんど聞き取れないほどの声で、ぽつりと口にした。
「……ひ」
ユマは耳を疑った。
しかし、確かに聞こえた。
「……今、“火”って言ったのか?」
彼女は答えない。
けれど、その口元には、確かに微笑が浮かんでいた。
焚き火の炎が、夕暮れの風に揺れた。
それはまるで、言葉の代わりに、想いを伝えようとするかのようだった。