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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜にほどける

黒髪の女

作者: ノベル



中学3年生、春、当時付き合っていた女の子がいた。

 長い黒髪がさらさらしている鼻の高い女の子だった、2年で同じクラスになってから俺の猛アピールで付き合えた。プラトニックな恋愛は他の学生のそれより長く続き、付き合って一年半が経った。

 参加していたボランティア団体に短髪の女が加入したのはその頃だった。


 陰鬱で、引っ込み思案で、肌の白い、年下の、短髪の女。


 当時リーダーシップを発揮していた俺は積極的にボランティア活動に参加を促した。警察の生活安全課主導の交通整備やビラ配り、自治体主導のお祭りの手伝い、歩道の植木の整理、短髪の女の手を取り参加を促した。

 下心はなかった。ただみんなで漠然とした正義や善意に向かって行動するのは楽しかった。1人でもその仲間が増えれば世の中はもっと良くなると思っていた。

 俺は妙にその短髪の女に懐かれた。純粋な好意なのか歪んだ依存心なのかはついぞわからなかったが彼女から向けられる思いにはすぐ気づいた。

 向けられる好意は気持ちが良かった、自分は好きな人と付き合ってるのに、それだけで満足できるはずなのに、1人から注がれる愛情で足りなくなって、愛情をさらに欲した、貪欲に。

 家庭環境が悪かったわけではないんだ、両親からは充分な愛情を注がれて育ったし、姉とは喧嘩するもののお互いを尊重し合っていた。ただ、俺が生まれつき愛に貪欲だった話だ。ただ人より人間の尊厳を尊ぶ尺度が時代に合わなかっただけの話。


 当時14歳の孤独な少女の心を操るのは簡単だった。依存心を擽り、寂しさに漬け込み、下がり切っていた自己肯定感や自己愛を埋めてあげれば一週間とかからずお手軽に都合のいいお人形ができた。


「私、先輩に彼女がいてもいいの。」


 ボランティア活動の終わった帰り道、そう言いつつもじもじと、上目遣いでこちらの顔色を伺う短髪の女の唇を奪った。彼女の特別なファーストキスで、俺からしたら数えていないほどありふれ、こなしてきた粘膜接触。

 あの時なんて言ったか覚えてない、好きだよ、とか。愛しているよ、とか。ありふれたことをさも感情が篭っているかのように伝えていたと思う、俺はきっとそういうことを簡単にする。

 そのまま彼女の家に2人で行った、両親は不仲らしくほとんど家にいないのは都合が良かった。そのままなんとなく思春期の男女らしく繋がりあった。また一つ彼女の特別なハジメテを奪った。痛みを堪えつつ俺のために尽くす様子はとても愛を感じて俺は満足した。血のついた避妊具をティッシュに包んで隠すように捨てて帰った。帰り道にあくびがでた。


 彼女とは純愛を重ね、汚いものは短髪の女に吐き出した。汚れたものを注げば注ぐほど、受け入れる短髪の女のその行為を向けられる愛だと勘違いして。

 一週間、1ヶ月、そんな関係が続けば続くほど短髪の女との関係は歪んでいった。最初は埋めていた彼女の心の隙間を埋めなくなって、俺のために全てを飲み込むのが当たり前だと刷り込んだ。それが俺に愛される唯一の方法だと。


 途中からは性欲ではなく支配欲で短髪の女と付き合った。際限なく膨らむ支配欲と比例するように短髪の女の陰鬱な雰囲気はさらに深くなり、目の下からクマが消えることも無くなった。

 冬が終わる頃、俺の高校受験が順調に終わり、全てが順風満帆に進んでいたころ。


 短髪の女が死んだ。


 自殺だった。冬の朝、突然警察官が家に来て俺を取り調べ室に引っ張り込まれた時に伝えられてた。彼女の遺書には俺との関係が詳細に書かれていたらしい。あまりに歪んだ関係に司法の捜査がかかった。

 強要罪、児童ポルノ製造違反に当たるらしい。皮肉にも捜査にあたったのは生活安全課の刑事たち、皆俺も知り、信頼されていた関係だった。全てを知った刑事たちは口を揃えて俺を罵倒した。後から事件のことを伝えられた家族には殴られ、泣かれた後。産むんじゃなかったとボソリと呟かれた。

 支配欲の満たされた全能感からの落差に眩暈がした、ただ、短髪の女が死んだことを知っても涙は出なかった。

 決定的に人間として必要なものの欠如が周囲に知られてからは誰にも俺のことを見られたくなくて、心を覗かれたくなくて、距離を置いた。幸い学校にはもう通わなくて良い季節だったので部屋の中で引き篭もっているだけで済んだ。

 彼女にも別れを告げた。突然振られたことに動揺して、泣いていた彼女を見ても俺は泣けなかった。心が動かなかった。


 元から狂っていたのか、短髪の女の事件がきっかけなのかは知らないが俺は、山田京介の人生はここから狂った。

 

 

 

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