08 聖戦 其の弐
様子をうかがっていたメイトは、思わず憤りに手に力を入れる。
自分の指にはめてある黒い石の指輪、藏之助に触れた。
「・・・分かった」
「どうしましたの、メイト?」とカドア。
「あれは、王になりたかった軟弱たちの異形の姿かもしれません」
「王族への呪い・・・」
「おじさま」
「聞いていた、どうした?」ケビンが気絶したパアラトを肩に抱き寄せる。
「ウインガーと話したの」
「うん、何をする気だい?」
「まだ試してもないから、成功するか分からない」
「何をする気だ?」
「あれは、いらぬ出世欲だわ・・・その、かたまりだましい」
「お前が何を言いたいのか、分かった気がする。援護する。まだ撃てる」
「わたくしにできることは、あって?」とカドア。
「終わったら、土に願って、養分にして、あなたの力で花を咲かせて下さい」
メイトはアーサーのさやをにぎったままの片腕をスナッピーに向けた。
もう片方の腕で、もう片方の腕を補助する。
魔法石藏之助、そしてその中に眠っているウインガーに意識を集中する。
メイトが言い放った。
「他者を思いやる気持ちがないお前は、王の器ではないっ」
「え?」と悲鳴をあげていたスナッピーが意外そうにする。
「いらぬ欲を捨てず、慢心した状態を王に満ちていると言ったお前を許さぬっ」
「なんで?君たちって優しいんでしょう?」
「『聖破っ』」
こんしんのそのメイトの言葉に、ウインガーが目覚めた。
藏之助から飛び出したそのつるぎは、スナッピーに刺さった。
その欲にまみれた体は、ウインガーの意思に、異物だと判断された。
限られた器いっぱいの聖に、その巨体が弾ける。
メイトはしゃがみこむように、倒れた。
ケビンは魔法銃を一発、冷静にその残骸に撃ち込む。
「スナッピーよ灰になれ、『ファイラガ』・・・」
「草木よ、どうか協力を・・・わたしは、あのものが灰として残るのも許せません」
撃ち込まれた炎の銃弾と、残っていたつる草で残骸を燃やす。
そして灰すらなくなった頃、カドアが静かに言った。
「『サカス』・・・」
庭の芝一面に、毒気を抜く聖なる植物がはえてきて、次々と花を咲かせた。
伝説の、金色の紫陽花があたりに咲いている。
「おわった、のか・・・?」
カドアはふらふらとしていたが、しばらく成分でも調べるかのように花を見ていた。
プボスマが、よく分からんが少し眠る、と地面に横になった。
倒れこんだカドアを抱きとめるメイトは、一筋の涙を流した。
ケビンの顔色を見ると、ケビンが優しく言った。
「きっともう、大丈夫」
うなずくと、メイトはそのまま気を失って、体勢を崩すようにカドアと共に倒れた。
案内人の老婆が、ケビンに言う。
「ぬしも、しばらく休みたもう」
「そうですね・・・みんな、眠っているだけのようだ・・・」
まぶたが重くなってきたらしく、ケビンはおもむろにあおむけになった。
抱きとめているパアラトはその胸にくしゃみをしたが、まだ起きる様子もない。
眠りを誘うような風が鮮やかに吹いた。
そしてそのそよ風がケビンを安心させたようだった。
ケビンは睡眠に入ることを自分に許した。
庭は静かで、そして彼らの寝息が少ししている。