05 精霊のつるぎウインガー
【千鳥足】ちどりあし・・・酒に酔った人が左右によろめいて歩くこと。また、その歩き方。
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【堂万寿 社宮】
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残ったは、リールーとメイト。
社宮でどちらかがつるぎをたまわり、次は王になる者が持つアーサーが待っている。
社宮はエルフの隠れ里で、そこで休憩をとることになった。
先に伝説のつるぎをたまわった者たちは、客間で眠りについている。
「わたしはてっきり、プボスマ兄さんが龍宮でつるぎをたまわるんだと思っていた」
「はい、たいがいの者はそう思っていたと思います」
拓けた場所に大きなテーブルがあり、そこにごちそうが並んでいる。
ケビンが言った。
「メイト、もうちょっと食べなさい」
「ああ、はい。なぜだかお腹がすいています」
「それは社宮でつるぎをたまわる前兆かもしれない」
「はい」
豆のスープを口に運ぶメイト。
どん、と音をたてて立ち上がったスナッピーは葡萄酒のボトルを持ってどこかに行った。
深いため息を吐くリールー。
「メイトは、王になりたいか?」
「いいえ、仕える身でございます」
「そうなのか・・・わたしはまだ、よく分からないんだ。わたしは人間界にいたから」
「リールー姫が、芯間でも無事故の祈りをしていたのを知っています」
「それがなんなり?」
メイトは微笑する。
「ああ、何かが違う、と思ったのです」
「それはわたしが人間の血を引いているからか?」
「いいえ、そういうことではないと思います」
「ん~・・・」
「姫の命を感じて、もしや王になるのでは、と犬宮で心ひそかに思っていたのです」
ぎょっとするリールー。
「やめぬか、メイトが王になった時なんと言ったらいいんだ?」
「わたくしは、仕える身でございます」
「メイトには、何か確証があるのか?なにかはっきりしていることが?」
「それは命を運んできたから、魂が感じていることなのです」
「ほう・・・」
「きっと大丈夫。リールー姫は、よい統治をされまする」
「ああ、不安だ」
「まだ十歳の姫君には、少し荷が重いような気もいたします」
「ああ、気遣いありがとう」
「まだ寮に入って間もないというのに、どうしてそのように威厳を持たれたのか?」
「分からぬ。なんのことだ?」
「気遣いありがとう、と気遣ってくれたことでございます」
「はぁ?当たり前の言葉であろうに。私は、自分が普通であることに悩んでいるのだぞ」
ケビンとメイトはぱちくりとしばたいて顔を見合わせた。
「こりゃすごい」
「なんて素晴らしい」
「何がだ?」
近くにいたエルフが言った。
「お早く飲まれませんと、せっかくのスープが冷めてしまいますよ」
「ああ、うん」
「それからメイト姫、あなたがこの社宮で選ばれました」
「はい」
「食事が終わりお腹を休めたら、たまわりに行きましょうね」
「はい」
「ってことは・・・わたしが龍宮っ?何かの間違いではないのかっ?」
リールーは不安そうに声をあげた。
「何かの間違いではないのかっ?」
べろべろに酒に酔ったスナッピーが別の場所で叫んだ。
勝手に喋りだす。
「一方は仕える身、一方は人間界出身っ。そのどちらかが次の王っ?はっ」
ボトルに口をつけて葡萄酒を飲む。
そしてまた喋りだす。
「そーうだ、人間界出身の者が王になるはずはない。ここはメイトをほだし、結婚だ」
また葡萄酒を飲み、両手を広げてスナッピーは叫んだ。
「さすれば、いずれ、王は我なりーーーーっ」
お腹を休めて社宮の芯間に通された時、ケビンはいなかった。
パアラト王子が熱を出し、そのお守をすることになったからだ。
メイトのつるぎのたまわりを見守るのは、リールーと担当のエルフ。
そこに、知らせを受けて千鳥足のスナッピーがやってきた。
スナッピーはにやにやとしている。
「なんです?神妙にしなさい」
浅黒い肌に白髪の女エルフがスナッピーに言った。
「お嬢さんは、よく見ると、可愛いですねぇ」
「・・・は?」
スナッピーはぐぐいとメイトに顔を寄せてきた。
「パンツ、何色はいてるの?」
その瞬間とも呼べる速さでスナッピーはメイトから横っ面にパンチをくらい、
リールーの蹴りが股間にクリーンヒットした。
前かがみになったスナッピーの頭を、メイトが殴り、気絶させた。
「さわちゃったよ~、キモイ~」
「キモイでございます」
「何かあったら、証言しよう」
女エルフがそう言った。
「「ありがたい」」
芯間の真中に、つるぎが奉納されている。
そのつるぎを女エルフが壁からはずすと、メイトに言った。
「欲で接すれば、必ず身をほろぼす」
メイトは神妙につるぎを受け取った。
「精霊のつるぎ、ウインガー・・・」
指にはめていた藏之助という魔法の指輪が淡く光る。
「なるほど、藏之助におさめておきます」
つるぎをかまえてみるメイトは、ひとふり、ふたふり、とウインガーと通った。
ヴゥン、と音を立てて姿を消すウインガー。
「なんだっ?」
リールーの驚きの声に、微笑するメイト。
「魔法石が作る異次元に収めただけです。ご心配にはおよびません」
「な、なるほど・・・」