01 呼び出し
――* 序章 *――
ひと昔前の話だが、とある男の若かりし頃。
攻められた関所に乗り込み、先陣を切って前に出て旗をかざしたその男。
その男は、魔法国の王子。
一方敵側に、頭の悪い、「潰してやるんだ」が口癖のケダモノがいた。
王子は言った。
「我の名はポテトティニウス、父上と母上からは、ポテト、と呼ばれている」
ケダモノが飛び跳ねながら言った。
「潰してやるんだっ」
ポテトティニウスはたからかに言った。
「そしたら我はマッシュ・ポテトだっ」
その戦いを勝利へと導いたその王子は、現王としてよい統治をしている。
◆◇◇◆◇◇◆
魔法領国の秘密の森に住むメイトは、香る滝で湯あみをしていた。
芳香する花が周りに咲いている温泉滝があって、花びらが滝壺に浮いている。
それを集めたりして楽しんでいるメイトに、木登りをしていた妹のジェイミーが言った。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、不審者だよ~」
「え?」
声の方に振り向くメイト。
「やぁ、ジェイミーあいかわらずだな」
聞き覚えのある声。
「のぞき?」
「俺は仕事で来た、の。急ぎだ」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
「うん、聞こえてる。おじさまなの?」
「湯あみ中申し訳ないが、急ぎの仕事の話だ。君が選ばれた」
気を使っているのか、草陰に人型が見える程度に距離をとっている男は、おじケビン。
「どんなお仕事なの?」
「あとで言う。遠出をするから、それなりの服を着なさいね」
「おじさまのために、新しいデザインの服を考えましたの」
「聞いている。今から着替えだ。楽しみにしているよ」
「ねぇ、私はどうなるの?」
「ジェイミーはお留守番だ」
「そうか~。遠くにお散歩行ってみたかったけど、そしたらまず風呂に入らないとな」
「お前、いつから風呂に入っていない?」
「お風呂嫌い」
「いつから入っていない?」
「気にしないで」
「お湯をかけあったら、楽しいと思うぞ」
「なーるほどねっ」
背中に妖精の羽根を持つジェイミーが木の枝から飛び降り、滝壺にダイブした。
「服のままで、着替えどうするのっ?」
「しーらなぁい」
お湯をかけてきたジェイミーに、それを返したメイト。
そうしていくうちに、お湯のかけあいになって笑い声が出てきた。
おじのケビンが言う。
「ジェイミー、そろそろお姉ちゃんを貸してね~」