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第5話

 コックピットから地上に降りたナナキは、跪いた姿勢のリベーターを見上げる。

 ダメージは軽微でメンテナンスが不要な程度だった。

 戦闘も短時間出終わったため、燃料は十分に残っている。

 リベーターの継戦能力に問題がないことを確認したナナキは、当時のことを思い出す。


(最初の頃はずっとボロボロだったよな……)


 リベーターに乗り始めた当初、パイロットとしてのナナキは決して優れた人間ではなかった。

 そこからの戦闘記録では辛勝や撤退も多く、満身創痍で帰還したことも珍しくない。

 持ち前の悪運と執念で生き残った結果、現在の実力まで成長したのである。

 単純なセンスや才能という点では凡人に近いのがナナキという男だった。


 ナナキはリベーターのそばに座り込む。

 安堵した途端、足腰の力が抜けて歩けなくなったのだ。

 彼は空を眺めて気持ちが落ち着くのを待つ。


 敵部隊の殲滅に気付いた人々がナナキのもとに集まってくる。

 礼を言おうとした人々は、彼の目を見てぎょっとする。


 空を仰ぐナナキの双眸は深い憎悪に染まっていた。

 それでいて顔は晴れやかに微笑んでいるのだから、不気味に思われても仕方ない。


 人々は躊躇しつつもナナキに感謝を告げる。

 彼が命を救ってくれたことに変わりはないからだ。

 事務的に受け答えをしながらも、ナナキは別のことを考えていた。


(どうして過去に戻ったのか分からないが好都合だ。この奇跡を利用して歴史を変えてやる)


 彼は滅びの未来を知っている。

 敵も味方も無差別に終焉を迎えた虚無の世界……それをナナキは二度と味わいたくなかった。


(俺は、今度こそ幸せな未来を掴むんだ)


 その後、ナナキは街の復興作業を手伝うことになった。

 ナナキが敵部隊を迅速に殲滅したものの、被害は完全なゼロではない。

 焼けた家屋の消火や怪我人の搬送など、やるべきことは山積みであった。


 ナナキはリベーターを重機代わりに操り、倒壊した建物の除去を進めていく。

 繊細な作業も彼にとっては朝飯前だった。

 リベーターは手際よく瓦礫を運び、塞がれた道路の回復に努める。

 その頃には街の人々の態度も変わり、ナナキのことを不気味に思う人間はいなくなっていた。

 単独で街を救った英雄として、彼に心の底から感謝していた。

 かつて守れなかった人々の元気な姿に、ナナキも静かに喜びを感じた。


 作業中、ナナキは道を歩く人間を見つける。

 それは彼の家族だった。


 ナナキの両親がリベーターに頭を下げる。

 真面目な姉は涙を流して「ありがとう」と叫んでいた。

 幼い弟は無邪気に手を振っている。


(よかった……みんな生きてたんだ)


 本来の歴史だと、ナナキの家族はこの戦闘で死ぬはずだった。

 光線の薙ぎ払いによって死体も残らずこの世を去るのだ。


 ナナキは家族の生存に感動して涙を流す。

 すぐにでも会いに行きたかったが、自分が十年後から来た人間であることを思い出して踏み留まる。

 会ったところで困惑されるのは目に見えていた。


(外にいた時に顔を見られなかったのはラッキーだったな)


 苦笑しつつ、ナナキは足元の瓦礫を持ち上げた。

 そして彼は凍りつく。

 血みどろになって潰されていた死体は、この時代のナナキだった。

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