第3話
眼前に広がる景色にナナキは既視感を覚える。
そこにある街並みは彼の故郷であり、愛する家族を失った場所だった。
十年前、ナナキはこの街で見習いの整備士として働いていた。
後方支援が専門で前線に出る予定はなかったが、敵軍のロドムが彼の運命を変えた。
ロドムの蹂躙が故郷を焼き払う最中、ナナキは最終メンテナンスを済ませたばかりのリベーターに乗り込むと、単身で彼らに挑んだ。
激戦の末、ナナキは敵軍の撃退に成功した。
その功績からパイロットとしての才能を評価され、ナナキは国内最強のエースと呼ばれるまでに至ったのである。
操縦桿を握るナナキは好戦的な笑みを浮かべる。
(あの時のやり直しってわけか)
ナナキは歓喜していた。
後悔ばかりの人生を塗り替えるチャンスが到来し、自然と鼓動が速まる。
彼はノールックでリベーターの安全装置を外すと、機体を全力疾走で前進させた。
パイロットの負荷を抑制する安全装置は、リベーターの出力に上限を設けて無茶な駆動ができないようにしている。
それを解除するということは、機体の持つポテンシャルを最大限にまで引き出すのと同義だった。
パイロットの技量次第ではあるが、安全装置を外した機体の性能は三倍以上になるとされている。
アスファルトの道路をリベーターが突き進む。
接近に気付いた一体のロドムがライフルを向けて発砲した。
赤い光線が放たれるも、リベーターの肩の装甲を掠めただけだった。
続く二発目、三発目も微々たる破損に留まる。
ナナキは相手のライフルの軌道を予測し、僅かな動きで回避していたのだった。
リベーターが一気に距離を詰め、無防備なロドムの胴体に拳を叩き込む。
凄まじい轟音と共に拳が金属装甲を突き破り、そのまま背中まで貫いた。
リベーターの手には握り潰されたパイロット席がへばり付いている。
滴るオイルと血が敵パイロットの死を言外に示していた。
初期型のロドムは機動力の向上を代償として装甲がやや薄い。
歴戦の知識でロドムの構造を熟知するナナキは、構造的に最も脆い箇所をピンポイントで攻撃することができる。
特にパイロットの直接殺害は、戦争終盤における彼の得意技であった。
「まずは一体……」
パイロット席の残骸を捨てたナナキは、周囲を睨みつける。
突如として現れたリベーターを見て、他のロドムが駆け付けようとしていた。