第2話
ナナキが目を開ける。
彼は薄暗い倉庫に横たわっていた。
「ここは……」
ナナキは不思議そうに周囲を見渡す。
人の気配はなく、整理された段ボールが積み上げられている。
久々に目にした文明的な光景に彼は困惑して動きを止める。
しばらくして我に返ったナナキは身に着けていた電波腕時計を確認する。
デジタル表示に映し出された西暦は十年前のものだった。
首を傾げたナナキは腕時計のボタンを押したり振ってみる。
それでも表記は変わらなかった。
(故障したのか?)
次にナナキは手近な段ボールに手をかけて乱暴に開く。
中には軍用の携帯食とペットボトルの水が詰められていた。
それを目にした瞬間、ナナキの腹が情けない音を鳴らす。
不毛の地を彷徨っていた彼は、もう何日もまともな食事を取っていなかった。
深い絶望で意識外に追いやっていた空腹を彼は認識する。
ナナキは携帯食を勢いよく頬張り始めた。
合間に水を一気飲みして口内を潤す。
あっという間に数人分の食事を平らげたナナキは、全身に力が漲るのを感じた。
彼は水を飲みつつ倉庫内の探索を始める。
あちこちに保管された銃や車両はいずれも十年前のものだった。
不可解な現状にますます混乱しながらも、ナナキは倉庫の奥へと向かう。
整備スペースに鎮座するそれを目にした時、ナナキは足を止めた。
ライトがやんわりと照らし上げるのはリベーターだった。
傷一つない塗装に無改造のフォルム。
ナナキの知る現代には決して存在しない新品のリベーターである。
ナナキはリベーターに歩み寄って呆然とする。
「まさか、本当に過去なのか……?」
倉庫の外で爆発音が轟いた。
ナナキは倉庫の入口まで走ると、隙間から様子を窺う。
住宅エリアを踏み潰して行進するのは人型兵器の部隊だった。
当時、敵国の主戦力であった量産機ロドムだ。
軽量化に伴う高い機動力と、最新式のライフルによる火力を両立したロボットだった。
各国で大量のコピー品が生み出された傑作機であり、最も戦禍を撒き散らした悪魔の兵器とも呼ばれている。
ナナキにとってはまさに宿敵とも言える存在だった。
ロドム達の蹂躙を目の当たりにしたナナキは、すぐさま新品のリベーターに乗り込んだ。
反射に近い速度で起動させて歩行を開始する。
誰よりもリベーターを使い込んだナナキは、誰よりもリベーターの性能を引き出せることを自認していた。
「――皆殺しだ」
加速するリベーターが倉庫の扉を粉砕して飛び出した。