第1話
どこまでも荒廃した大地。
分厚い黒い雲が空を覆い尽くし、昼間にも関わらず辺り一帯が薄暗い。
そこかしこで硫黄の刺激臭と腐臭が混ざり合って漂っている。
常人なら卒倒しかねない劣悪な環境を一人の男が歩く。
薄汚れたジャンプスーツを着るナナキは、絶望した表情で彷徨っていた。
倒れそうな足取りでふらふらと歩いている。
「何も、守れなかった……」
周囲には焼け焦げた資材や兵器、そして死体が散乱している。
廃液が溜まって池のようになっている箇所もあった。
遠くで何かが燃えているが、ナナキは目もくれずに通り過ぎる。
そこに誰もいないことを知っているからだ。
長きに渡る戦争が世界を終わらせた。
革新的な技術の発展が被害を際限なく拡大し、敵も味方もすべて滅んだのである。
不毛の星と化した地球において、もはや戦争の勝敗など無意味な話だった。
悲劇を語り継ぐ後世そのものが消え去っている。
誰もいない荒野をナナキは飢餓状態で歩き続けていた。
絶望に浸った瞳で彼は呟いている。
「みんな……死んだ……俺のせいで……」
亡霊のようなナナキが立ち止まり、ふと遠くに視線を移す。
小高い丘に錆だらけの人型ロボットが跪いていた。
全長は三十メートルほどで、各所が破損して燃料が垂れ流しとなっている。
右腕は肘から先が欠損し、千切れた配線の束が剥き出しだった。
ヘルメット状の頭部が開き、空席のコックピットを晒している。
およそ十年間、ナナキと共に戦場を駆けた愛機――リベーター・カスタムだ。
癖の少ない量産機であるリベーターに幾度もの改良を加え、世界最強の人型兵器に昇華させた機体だった。
世界が滅んだことを契機に、ナナキが乗り捨てたのであった。
(離れたつもりが、無意識に戻ってきたのか)
ナナキは愛機に駆け寄って笑う。
涙の枯れた、疲れ果てた人間の笑みだった。
誰もいないコックピットを一瞥した後、彼は両手を広げて告げる。
「おめでとう。俺とお前で、世界を滅ぼしたんだ……」
機能を停止したリベーター・カスタムは動かない。
役目を終えてただ静かに朽ち果てる時を待っていた。
ナナキは愛機のそばに開いた大穴を見る。
超兵器の熱線によって掘り抜かれた穴は底が分からないほどに深い。
ナナキはため息を吐いて呟く。
「もしやり直せるなら、こんな結末にはしないのに」
脱力した彼は大穴に身を投げた。