6話 破滅的家事レベル
ハクレイさんとレイドの読みは当たった。
クラウンの家に泊まらせてもらった翌日にはお城の従者が出向いたのだ。
そしてクラウンにこう告げる。
「学者から、もう時期あの山が噴火すると報告を受けた。天才錬金術師クラウン。一刻も早く月生の血玉を錬成してくれ」
従者からの言葉にクラウンは顔を真っ青に染めていたのが新しい記憶にある。
私はそれを思い出しながら台所に立ち、1人野菜を切っていた。
「断面が多くなるように切ってください。そうすれば味の染み込みが良くなります」
「こ、こう?」
「さっき言った猫の手を忘れていますよ、キヨカ」
「あーもう!」
包丁を扱うことすら苦戦している私に柔らかい声が降りかかる。
ハクレイさんは導きの書から手取り足取りを優しく教えてくれた。
「大丈夫です、キヨカ。ゴロゴロとした不恰好な具材でも味付けを間違わなければ美味しくなりますよ」
「でもそれで昨日レイドに馬鹿にされたんですけど!?」
クラウンの家に城の従者が来てからはレイドが組み立てた筋書き通りだった。
私達に錬金術の支え役の経験が無くても、人は多い方が良いというレイドの説得で無事クラウンの側に居ることに成功したのだ。
なので案の定私は事前の打ち合わせ通り家事の一通りをやっているのだが……。
「やっぱり私は家事の才能なんてありません」
「誰だって最初は才能なんてありませんよ。才能というのはある程度経験して生まれるものです」
「……でもクラウンは小さい頃から天才じゃありませんでした?」
「ええ。でもそれは彼が錬金術にある程度触れたからです。彼自身が錬金術に出会わなかったら、天才なんて呼び名はありませんでした。そもそもこの物語すら無かったかもしれません」
「ふーん」
「キヨカ、猫の手」
「にゃん」
「良い子です」
ハクレイさんに指示された野菜切りが終わったら次は鍋に水を張る。
今日の夕飯は具材たっぷりスープだ。
「そもそも私がこんなに頑張っている間、クソ上司は何やってるんですか?」
「現在のクラウンの心は鬱に近い状態です。だからこそストーリーテラーが側にいなければならない。ハッピーエンドで終わるには主人公の存在が不可欠ですからね」
「心を壊さないようにやる気を出さなきゃならないんですね…」
「簡単に言えばそうですね。キヨカ、火を付けないと鍋は沸騰しませんよ」
この世界に来て3日は経った。
クラウンとレイドは食事の時以外、工房と呼ばれる場所に篭っている。
工房はこの家と隣接しているのだが2人の声は全然聞こえなかった。
「クソ上司、一丁前に支え役やるって言ってましたけど出来るんですか?」
「ああ見えてレイドは真面目な人です。いつも夜中までクラウンから借りた手引きを読んでいますよ。きっと今も工房で1人学んでいるのでしょう」
「その時クラウンは何しているんだろう…」
「転機が来ない限りはボーッと悩んでいるのかもしれませんね」
「転機か〜」
「キヨカ、そんなに一気に野菜を入れると……」
「あちっ!!」
「すぐに流水で冷やしてください。今すぐに」