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ライトファンタジア 〜本の世界に入った私たちは未完結を執筆する〜  作者: 雪村
2冊目 ただ1人に愛されし哀れな令嬢の本
30/30

11話 ここからのハッピーエンド

「アビアナ」

「お兄、様…」


 クズ兄はこれ以上にないほど怖い顔をしながらアビアナお嬢を睨みつける。その手には剣が握られていて私は嫌な汗をかいた。


 その剣、場合によっては私の方に向く可能性もあるよね?


 ゴクリと唾を飲み込んで鋭い剣先から視線を上げると巨体メイドが視界に入る。魔物の返り血がついたメイド服を着て、ずっと隠し持っていたであろう武器を構える姿は魔物の生き残りみたいと内心思ってしまう。


 こんなジョークで笑える雰囲気ではないけれど。


「護衛ご苦労だったな。ここからはヴァリア家次期当主である僕が責任を持って此度の騒動の元凶を断とう」

「………」

「邪魔だ。退け」

「………」

「聞こえないのか?その構えを解かないのであればお前諸共斬るぞ」


 入ってきた魔物全て片付けた傭兵がお前みたいなお坊ちゃんにやられると思っているの?

 自意識過剰なのか本当にその実力があるのかはわからないがとりあえずギルバート、1発かまして欲しい。


 なんてことが言えたらどんなに気持ちがスッキリするだろうか。


 アビアナお嬢は跪くゼインとクズ兄を交互に見ているし、ギルバートは目の前のクズ兄を敵視し続ける。1人で突っ立っている私は完全に蚊帳の外だった。


「護衛の仕事は主人を守ることだ」

「まさか僕を敵と見なすつもりか?」

「お前はお嬢に殺意を向けて殺す宣言をした。これを害虫と思わない護衛なんていねぇよ」

「がっ害虫!?貴様、目の前に立つ者の地位をわかっているのか!」

「知らねーなぁ。俺の主人はそこで縮こまっているアビアナお嬢様だけだ」


 ギルバートの鋭い眼光がクズ兄に突き刺さる。クズ兄は害虫呼ばわりされたことに歯軋りするが、それ以上にギルバートの圧に押されていた。


 2人の睨み合いがどれくらい続いたかわからない。するとクズ兄はアビアナお嬢をチラ見して舌打ちをし剣をしまった。


「アビアナを地下倉庫に連れていけ。誰も入らせるな。そしてそこの護衛。今回は目を瞑ってやる。その代わり、お前はクビだ」

「あ?誰が主人以外のクビ宣告聞き入れると思ってんだぁ?」

「ギルバート!やめてくださいまし!」


 ギルバートが睨みを効かして一歩前に出た時だった。アビアナお嬢がベッドの上を四つん這いで歩いてくる。その手足は震えていて上手く力が入らないのだと誰もが察した。


 しかしアビアナお嬢は必死に前へと進みベッドから降りると、兄の元へ向かう。そして私たちを見ることなく部屋を出ていく素振りを見せた。


「行くぞ」


 2人は私たちの前から消えてしまった。ギルバートは武器を下ろすと近くの壁へ拳をぶつける。


「クソがっ!!」


 拳は壁へと抉り込みヒビを走らせた。傍から見ていた私はなんて声をかけていいかわからず、エプロンぐるぐる巻きの導きの書を抱きしめる。


 ゼインも力無く立ち上がり部屋の片付けを始めた。


「アイザワキヨカ。貴方は箒とちりとりを持ってきてください」

「わ、わかった」

「そしてギルバート。この部屋を掃除するのが最後の仕事になります。丁寧に行うよう」


 ギルバートは何も返事をしなかった。普段ならゼインに「返事」と繰り返されるのに今回はそんな指導が飛ぶこともない。


 私はこの雰囲気から逃げるように箒を取りに部屋を出た。


「ここからのハッピーエンドって何……!?」


 怒涛の展開すぎて私は頭が混乱してくる。カッコつけたことを言って司書である翠ちゃんに歯向かった代償が襲ってきた。


 それでもやっぱり後悔はしていない。


 邪魔をするために来たんじゃない。ハッピーエンドにすると宣言したのなら絶対に成し遂げてやる。私はストーリーテラーなのだから。


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